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本ページでは…
本ページでは、電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)が
であることをみて、電気双極子のエネルギー\(U\)が
となり、電気双極子がつくる電場\(\boldsymbol E\)が
となることを求める。
前ページまで…
前ページでは、クーロンの法則が
であることを確認し、電束密度\(\boldsymbol D\)と電場\(\boldsymbol E\)の定義
から導かれることをみた。
内容
モーメント
「位置ベクトル\(\boldsymbol r\)」と「位置\(\boldsymbol r\)における力\(\boldsymbol F\)や電荷\(q\)などの物理量」の積(ベクトル同士の積なら外積)をモーメントといい、特に「位置ベクトル\(\boldsymbol r\)」と「位置\(\boldsymbol r\)における力\(\boldsymbol F\)」の外積であるモーメントを力のモーメント\(\boldsymbol N\)
という。
電気双極子モーメント
大きさの等しい正負の電荷対を電気双極子という。\(-q\)電荷が原点\(\boldsymbol 0\)、\(+q\)電荷が位置\(\boldsymbol d\)にある電気双極子を考えたとき、電場\(\boldsymbol E\)の下では各電荷は\(-q\boldsymbol E\)と\(+q\boldsymbol E\)の力を受けるため、\(-q\)電荷における力のモーメント\(\boldsymbol N_-\)と\(+q\)電荷における力のモーメント\(\boldsymbol N_+\)は
となる。また、電気双極子における力のモーメント\(\boldsymbol N\)はそれぞれの力のモーメントの和で表され
となる。ここで、電気双極子の力のモーメント\(\boldsymbol N\)に現れる\(q\boldsymbol d\)という量は「電気双極子を構成する負電荷から正電荷へ向かう位置ベクトル\(\boldsymbol d\)」と「電気双極子を構成する電荷の大きさ\(q\)」との積となっているためこれもモーメントであり、電気双極子モーメントという。一般的に、電気双極子モーメントは記号\(\boldsymbol p\)を用いて
と表す。
電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)を用いて力のモーメント\(\boldsymbol N\)を表すと
となり、電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)が\(\boldsymbol E\)に平行であるならば力のモーメント\(\boldsymbol N\)は\(\boldsymbol 0\)となり、電気双極子は\(\boldsymbol d\)方向または\(-\boldsymbol d\)方向に沿って動くだけである。しかし、 電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)が\(\boldsymbol E\)に平行でなければ力のモーメント\(\boldsymbol N\)は \(\boldsymbol 0\)にはならず、各電荷において力\(\boldsymbol F\)(負電荷では\(-q\boldsymbol E\)、正電荷では\(+q\boldsymbol E\))は電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)に垂直な成分を持ち、電気双極子は回転する。
電気双極子モーメントの向き
力のモーメント\(\boldsymbol N\)が電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)と電場\(\boldsymbol E\)の外積
で表されることを認めれば、電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)の向きは必ず「負電荷から正電荷へ向かう向き」となる。なぜなら、\(+q\)電荷にかかる力のモーメント\(\boldsymbol N_+\)を計算する際に\(+q\)電荷の位置ベクトルに電荷の符号であるプラス符号が掛けられるが、\(-q\)電荷にかかる力のモーメント\(\boldsymbol N_-\)を計算する際に\(-q\)電荷の位置ベクトルに常に電荷の符号であるマイナス符号が掛けられるからである。
電気双極子のエネルギー
電場\(\boldsymbol E\)の下に置かれている電気双極子のエネルギーを求めてみる。
電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)の向きと電場\(\boldsymbol E\)の向きがなす角を\(\theta\)とし、垂直(\(\theta=90°\))である状態の電気双極子のエネルギーをゼロとする。この状態からなす角を\(\theta\)にすると、電気双極子を構成する\(+q\)電荷の位置エネルギー\(U_+\)は
となり、電気双極子を構成する\(-q\)電荷の位置エネルギー\(U_-\)は
となる。よって、電気双極子のエネルギー\(U\)は
と求められる。
先ほど、電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)の向きは「負電荷から正電荷へ向かう向き」となることをみた。この定義の利点として、式(7)より電気双極子のエネルギー\(U\)は電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)の向きと電場\(\boldsymbol E\)の向きが同じときに最低となり、真反対のときに最高となり、このことは我らの感覚と一致する。
電気双極子の電場
\(-q\)電荷が原点\(\boldsymbol 0\)、\(+q\)電荷が位置\(\boldsymbol d\)にある電気双極子がつくる電場を考える。
位置\(\boldsymbol r\)における\(-q\)電荷がつくる電場\(\boldsymbol E_-\)は
であり、\(+q\)電荷がつくる電場\(\boldsymbol E_+\)は
である。また、\(\boldsymbol d\)が十分小さいとき
と表され(以前のページを参照)、電気双極子においても\(+q\)電荷と\(-q\)電荷の距離\(\boldsymbol d\)も十分小さいため、式(9)は
となり、電気双極子が位置\(\boldsymbol r\)につくる電場\(\boldsymbol E\)は
となる。つまり、電気双極子のつくる電場\(\boldsymbol E\)は距離の3乗に比例して弱くなり、距離の2乗に比例して弱くなる単電荷の電場\(\boldsymbol E_+\),\(\boldsymbol E_-\)よりも距離の影響が大きい。
電気双極子モーメントと分極
以前のページで、誘電体(または絶縁体)に真電荷が近づいたとき、誘電体を構成する無数の電気双極子(永久双極子と誘起双極子)が整列し、誘電体表面に正・負電荷の分極電荷が現れることをみた。また、別のページでは、真電荷が電束密度\(\boldsymbol D\)を作ったように分極電荷は分極\(\boldsymbol P\)を作ることをみたため、電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)と分極\(\boldsymbol P\)にはある関係が成り立つ。
分極\(\boldsymbol P\)の単位は電束密度\(\boldsymbol D\)と同様に\(\text C\cdot\text m^{-2}\)であり、電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)の単位は\(\text C \text m\)である。よって、体積\(\Delta V\)中に電気双極子が\(n\)個存在するとき、単位体積あたりの電気双極子モーメントの和\(\sum_{i=1}^n\boldsymbol p_i\)が分極である。
電気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)の向きは「負電荷から正電荷へ向かう向き」であるため、式(13)より分極\(\boldsymbol P\)の向きも「負電荷から正電荷へ向かう向き」となる。一方、電束密度\(\boldsymbol D\)や電場\(\boldsymbol E\)の向きは「正電荷から負電荷へ向かう向き」である(以前のページを参照①②)ため、以前のページで電束密度\(\boldsymbol D\)の定義と分極\(\boldsymbol P\)の定義とで符号が異なっていた理由はベクトルの向きが真逆だからである。
次ページから…
次ページでは、静電場の理論で登場した各単語について説明をまとめる。