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グレーサーカップリングとは
グレーサーカップリング(またはグレーサー反応)とはアンモニアを含む水/アルコール混合溶媒中で1価の銅塩CuXと末端アルキンR-C≡C-Hから銅アセチリドR-C≡C-Cuを沈殿させ、酸素などの酸化剤を用いてジインR-C≡C-C≡C-Rを得るホモカップリング反応であり、1869年にグレーサーによって報告された(i)(ii)。
反応機構
反応機構としてはラジカル反応機構とπ錯体を経る反応機構の2つが提唱されており、現在は後者の考えが主流である。
ラジカル反応機構
①銅アセチリドの生成
初めに、塩基が末端アルキンR-C≡C-Hのプロトンを引き抜き、銅(I)イオンに配位してアセチリドR-C≡C-Cuが生成する。
②ラジカル開裂
酸素によって銅アセチリドが酸化してアルキニルラジカルR-C≡C・が発生する。
③ラジカルカップリング
ラジカル R-C≡C・の2分子が反応して、ジインR-C≡C-C≡C-Rが生成し、ホモカップリング反応が完了する。
π錯体を経る反応機構
①銅アセチリドの生成
初めに、塩基が末端アルキンR-C≡C-Hのプロトンを引き抜き、銅(I)イオンに配位して銅アセチリドR-C≡C-Cuが生成する。
②π錯体の形成
銅アセチリドR-C≡C-Cuの銅にもう一分子の銅アセチリドR-C≡C-Cuが配位して二核型の錯体を形成する。
③還元的脱離
ジインR-C≡C-C≡C-Rが銅(I)イオンから還元的脱離して、ホモカップリング反応が完了する。このとき、銅(I)イオンは酸素によって酸化される。
適用範囲
末端アルキンR-C≡C-H
塩基にある程度耐えられる基質であれば用いることができるため、基質の適用範囲は広い。
1価の銅塩
塩化銅(I)や臭化銅(I)、酢酸銅(I)などが用いられる。
塩基
一般的にアンモニアが用いられるが、グレーサー反応の修正法であるエグリントンカップリングではピリジンを塩基として用いる。
酸化剤
一般的に空気中の酸素が用いられるが、エグリントンカップリングでは酢酸銅(II)を酸化剤として用いる。
溶媒
一般的に水、アルコールが用いられるが、エグリントンカップリングではピリジンが溶媒として用いられる。
反応条件
脱水環境で行なう必要はなく、開放系で反応を行ない、空気中の酸素と反応しやすくするために撹拌を激しくすることもある。
応用例
エグリントンカップリング
グレーサー反応では溶媒が水/アルコールのため、これらの溶媒に不溶のアセチレン化合物を用いる場合はピリジンを塩基兼溶媒として用いるエグリントンカップリングが使用される(iii)(iv)(v)。
特に溶解性が問題となる環状分子の合成においては、対称の末端アルキン環前駆体からエグリントンカップリングで環状分子を合成することができる。酸化剤としては2価の銅塩である酢酸銅(II)や塩化銅(II)などが過剰量用いられる。
反応機構としては次の反応機構が提唱されている。
①銅アセチリドの生成
初めに、ピリジンが末端アルキンR-C≡C-Hのプロトンを引き抜き、銅(II)イオンに配位して銅アセチリドR-C≡C-Cu-Xが生成する。
②ラジカル開裂
銅アセチリドがラジカル開裂してアルキニルラジカルR-C≡C・が発生する。
③ラジカルカップリング反応
ラジカル R-C≡C・の2分子が反応して、ジインR-C≡C-C≡C-Rが生成し、ホモカップリング反応が完了する。
ヘイカップリング
グレーサーカップリングの反応機構を見ると、反応終了後に銅(I)イオンが再生しているため、工夫をすれば銅塩の使用量を触媒量に抑えることができる。実際に配位子を添加して銅塩および銅アセチリドの溶解性を上げることによって銅塩の使用量を触媒量に抑えることができ、そのような反応をヘイカップリングと呼ぶ(vi)。
配位子としては二座配位子のTMEDAなどが用いられ、溶解性の悪い銅アセチリドの溶解性を向上させ、グレーサー反応でみられるアセチリドの沈降による反応停止を防ぐ働きがある。
実験手順
反応例
フェニルアセチレンを反応をさせるとジフェニルジアセチレンが得られる (vii)。
その他
薗頭カップリングなどでは、副反応でグレーサーカップリングが起きることがある。
関連反応
・カディオ-ホトキェヴィチカップリング
参考文献
(i) Glaser, C. Ber. 1869, 2, 422.
(ii) Glaser, C. Ann. 1870, 154, 137.
(iii) Eglinton, G.; Galbraith, A. R. Chem. Ind. (Lond.) 1956, 737-738.
(iv) Eglinton, G.; Galbraith, A. R. J. Chem. Soc. 1959, 889-896.
(v) Eglinton, G.; McRae, W. Adv. Org. Chem.1963, 4, 225.
(vi) Hay, A. S. J. Org. Chem. 1962, 27, 3320-3321.
(vii) Campbell, I. D.; Eglinton, G. Org. Synth. 1965, 45, 39.
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