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本ページでは…
本ページでは、磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)が
であることをみて、磁気双極子のエネルギー\(U\)が
となり、磁気双極子がつくる磁場\(\boldsymbol H\)が
となることを求める。
前ページまで…
前ページでは、静磁場におけるクーロンの法則が
であることを確認し、磁気単極子の磁束密度\(\boldsymbol B\)と磁場\(\boldsymbol H\)の定義
から導かれることをみた。
内容
モーメント
「位置ベクトル\(\boldsymbol r\)」と「位置\(\boldsymbol r\)における力\(\boldsymbol F\)や電荷\(q\)などの物理量」の積(ベクトル同士の積なら外積)をモーメントといい、特に「位置ベクトル\(\boldsymbol r\)」と「位置\(\boldsymbol r\)における力\(\boldsymbol F\)」の外積であるモーメントを力のモーメント\(\boldsymbol N\)
という。
磁気双極子モーメント
大きさの等しい正負の磁気対を磁気双極子という。\(-q_{\text m}\)磁荷が原点\(\boldsymbol 0\)、\(+q_{\text m}\)磁荷が位置\(\boldsymbol d\)にある磁気双極子を考えたとき、磁場\(\boldsymbol H\)の下では各磁荷は\(-q_{\text m}\boldsymbol H\)と\(+q_{\text m}\boldsymbol H\)の力を受けるため、\(-q_{\text m}\)磁荷における力のモーメント\(\boldsymbol N_-\)と\(+q_{\text m}\)磁荷における力のモーメント\(\boldsymbol N_+\)は
となる。また、磁気双極子における力のモーメント\(\boldsymbol N\)はそれぞれの力のモーメントの和で表され
となる。ここで、磁気双極子の力のモーメント\(\boldsymbol N\)に現れる\(q_{\text m}\boldsymbol d\)という量は「磁気双極子を構成する負磁荷から正磁荷へ向かう位置ベクトル\(\boldsymbol d\)」と「磁気双極子を構成する磁荷の大きさ\(q_{\text m}\)」との積となっているためこれもモーメントであり、磁気双極子モーメントという。一般的に、磁気双極子モーメントは記号\(\boldsymbol p_{\text m}\)を用いて
と表す。
磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)を用いて力のモーメント\(\boldsymbol N\)を表すと
となり、磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)が磁場\(\boldsymbol H\)に平行であるならば力のモーメント\(\boldsymbol N\)は\(\boldsymbol 0\)となり、磁気双極子は\(\boldsymbol d\)方向または\(-\boldsymbol d\)方向に沿って動くだけである。しかし、 磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)が磁場\(\boldsymbol H\)に平行でなければ力のモーメント\(\boldsymbol N\)は \(\boldsymbol 0\)にはならず、各磁荷において力\(\boldsymbol F\)(負磁荷では\(-q_{\text m}\boldsymbol H\)、正磁荷では\(+q_{\text m}\boldsymbol H\))は磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p\)に垂直な成分を持ち、磁気双極子は回転する。
磁気双極子モーメントの向き
力のモーメント\(\boldsymbol N\)が磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)と磁場\(\boldsymbol H\)の外積
で表されることを認めれば、磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)の向きは必ず「負磁荷から正磁荷へ向かう向き」となる。なぜなら、\(+q_{\text m}\)磁荷にかかる力のモーメント\(\boldsymbol N_+\)を計算する際に\(+q_{\text m}\)磁荷の位置ベクトルに磁荷の符号であるプラス符号が掛けられるが、\(-q_{\text m}\)磁荷にかかる力のモーメント\(\boldsymbol N_-\)を計算する際に\(-q_{\text m}\)磁荷の位置ベクトルに常に磁荷の符号であるマイナス符号が掛けられるからである。
磁気双極子のエネルギー
磁場\(\boldsymbol H\)の下に置かれている磁気双極子のエネルギーを求めてみる。
磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)の向きと磁場\(\boldsymbol H\)の向きがなす角を\(\theta\)とし、垂直(\(\theta=90°\))である状態の磁気双極子のエネルギーをゼロとする。この状態からなす角を\(\theta\)にすると、磁気双極子を構成する\(+q_{\text m}\)磁荷の位置エネルギー\(U_+\)は
となり、磁気双極子を構成する\(-q_{\text m}\)磁荷の位置エネルギー\(U_-\)は
となる。よって、磁気双極子のエネルギー\(U\)は
と求められる。
先ほど、磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)の向きは「負磁荷から正磁荷へ向かう向き」となることをみた。この定義の利点として、式(7)より磁気双極子のエネルギー\(U\)は磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)の向きと磁場\(\boldsymbol H\)の向きが同じときに最低となり、真反対のときに最高となり、このことは我らの感覚と一致する。
磁気双極子の磁場
\(-q_{\text m}\)磁荷が原点\(\boldsymbol 0\)、\(+q_{\text m}\)磁荷が位置\(\boldsymbol d\)にある磁気双極子がつくる磁場\(\boldsymbol H\)を考える。
位置\(\boldsymbol r\)における\(-q_{\text m}\)磁荷がつくる磁場\(\boldsymbol H_-\)は
であり、\(+q_{\text m}\)磁荷がつくる磁場\(\boldsymbol H_+\)は
である(前のページを参照)。また、\(\boldsymbol d\)が十分小さいとき
と表され(以前のページを参照)、磁気双極子においても\(+q_{\text m}\)磁荷と\(-q_{\text m}\)磁荷の距離\(\boldsymbol d\)も十分小さいため、式(9)は
となり、磁気双極子が位置\(\boldsymbol r\)につくる磁場\(\boldsymbol H\)は
となる。つまり、磁気双極子のつくる磁場\(\boldsymbol H\)は距離の3乗に比例して弱くなり、距離の2乗に比例して弱くなる単磁荷の磁場\(\boldsymbol H_+\),\(\boldsymbol H_-\)よりも距離の影響が大きい。
磁気双極子モーメントと磁気分極
以前のページで、磁性体に真磁荷が近づいたとき、磁性体を構成する無数の磁気双極子が整列し、磁性体表面に正・負磁荷の分極磁荷が現れることをみた。また、別のページでは、真磁荷が磁束密度\(\boldsymbol B\)を作ったように分極磁荷は磁気分極\(\boldsymbol P_{\text m}\)を作ることをみたため、磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)と磁気分極\(\boldsymbol P_{\text m}\)にはある関係が成り立つ。
磁気分極\(\boldsymbol P_{\text m}\)の単位は磁束密度\(\boldsymbol B\)と同様に\(\text {Wb}\cdot\text m^{-2}\)であり、磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)の単位は\(\text {Wb}\cdot \text m\)である。よって、体積\(\Delta V\)中に磁気双極子モーメントが\(\boldsymbol p_{\text m,i}\)である磁気双極子が\(n\)個存在するとき、単位体積あたりの磁気双極子モーメントの和が磁気分極\(\boldsymbol P_{\text m}\)である。
磁気双極子モーメント\(\boldsymbol p_{\text m}\)の向きは「負磁荷から正磁荷へ向かう向き」であるため、式(13)より磁気分極\(\boldsymbol P_{\text m}\)の向きも「負磁荷から正磁荷へ向かう向き」となる。一方、磁束密度\(\boldsymbol B\)や磁場\(\boldsymbol H\)の向きは「正磁荷から負磁荷へ向かう向き」である(以前のページを参照①②)ため、以前のページで磁束密度\(\boldsymbol B\)の定義と磁気分極\(\boldsymbol P_{\text m}\)の定義とで符号が異なっていた理由はベクトルの向きが真逆だからである。
次ページから…
次ページでは、E-H対応における静磁場の理論で登場した各単語について説明をまとめる。