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スピン角運動量

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本ページでは…

 本ページでは、スピン磁気モーメントを生むスピン角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol s}\)の各成分が次の交換関係

\begin{align*}[\hat {\boldsymbol s}_y,\hat {\boldsymbol s}_z]&=i\hbar\hat {\boldsymbol s}_x\\ [\hat {\boldsymbol s}_z,\hat {\boldsymbol s}_x]&=i\hbar\hat {\boldsymbol s}_y\\ [\hat {\boldsymbol s}_x,\hat {\boldsymbol s}_y]&=i\hbar\hat {\boldsymbol s}_z\end{align*}

を満たす行列演算子であり、\(z\)成分の固有値\(\boldsymbol s_z\)はスピン磁気量子数\(m_s\)を用いて

\begin{align*}\boldsymbol s_z= m_s\hbar\ \ \ \left(m_s=-\frac{1}{2},\frac{1}{2}\right)\end{align*}

であることを、軌道角運動量\(\boldsymbol l\)の性質から類推する。

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前ページまで…

前ページでは、原子の電子には軌道磁気モーメントとは別の磁気モーメントであるスピン磁気モーメントが存在することを確認した。

 また、原子に磁場をかけたとき、軌道磁気モーメントのみを考慮した正常ゼーマン効果で考えられる以上のエネルギー準位の分裂が、軌道磁気モーメント及びスピン磁気モーメントによって起きる異常ゼーマン効果を確認した。

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内容

スピン角運動量とは

前々ページで、軌道磁気モーメントは軌道角運動量\(\boldsymbol l\)から生じていたが、スピン磁気モーメントを生む角運動量をスピン角運動量\(\boldsymbol s\)と呼ぶ。

スピン角運動量演算子の交換関係

 軌道角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol l}\)の各成分は次の関係式

\begin{align*}[\hat l_y,\hat l_z]&=i\hbar\hat l_x\tag{1}\\ [\hat l_z,\hat l_x]&=i\hbar\hat l_y\tag{2}\\ [\hat l_x,\hat l_y]&=i\hbar\hat l_z\tag{3}\end{align*}

を満たしていたが、同じ角運動量演算子であるスピン角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol s}\)の各成分も同じように次の関係式

\begin{align*}[\hat {\boldsymbol s}_y,\hat {\boldsymbol s}_z]&=i\hbar\hat {\boldsymbol s}_x\tag{4}\\ [\hat {\boldsymbol s}_z,\hat {\boldsymbol s}_x]&=i\hbar\hat {\boldsymbol s}_y\tag{5}\\ [\hat {\boldsymbol s}_x,\hat {\boldsymbol s}_y]&=i\hbar\hat {\boldsymbol s}_z\tag{6}\end{align*}

を満たすと予想できる。これらの関係は、次の定義のエディントンのイプシロン\(\epsilon^{abc}\)

\begin{align}\epsilon^{abc}=\begin{cases}+1\ \ \ (abc)=(xyz)の偶置換\\ -1\ \ \ (abc)=(xyz)の奇置換 \\ \ 0\ \ \ \ \ その他\end{cases}\tag{7}\end{align}

を用いると、次のようにシンプルに表せる。

\begin{align*}[\hat l_a,\hat l_b]&=i\hbar\sum_{c=1}^3\epsilon^{abc}\hat l_c\tag{8}\\ [\hat {\boldsymbol s}_a,\hat {\boldsymbol s}_b]&=i\hbar\sum_{c=1}^3\epsilon^{abc}\hat {\boldsymbol s}_c\tag{9}\end{align*}

スピン角運動量演算子の\(z\)成分の固有値

 方位量子数が\(l\)のとき、軌道角運動量の\(z\)成分の演算子\(\hat l_z\)の固有値\(l_z\)は磁気量子数\(m_l\)を用いて

\begin{align*}l_z= m_l\hbar\ \ \ (m_l=-l,-l+1,\cdots,l-1,l)\tag{10}\end{align*}

と表され、固有値の数は\(2l+1\)個あった。

 このことを参考にすると、スピン量子数が\(s\)のとき、スピン角運動量の\(z\)成分の演算子\(\hat {\boldsymbol s}_z\)の固有値\(\boldsymbol s_z\)はスピン磁気量子数\(m_s\)を用いて

\begin{align*}\boldsymbol s_z= m_s\hbar\ \ \ (m_s=-s,-s+1,\cdots,s-1,s)\tag{11}\end{align*}

と表され、固有値の数は\(2s+1\)個あると予想できる。後でわかるが、複数の整数をとる方位量子数\(l\)と異なり、実際にはスピン量子数\(s\)は半整数の\(\frac{1}{2}\)のみしか存在せず、スピン磁気量子数\(m_s\)は\(-\frac{1}{2}\)と\(-\frac{1}{2}\)の2つが存在する。

スピン角運動量演算子の形

 スピン角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol s}=(\hat{\boldsymbol s}_x,\hat{\boldsymbol s}_y,\hat{\boldsymbol s}_x)\)がどのような形をしているか考えよう。選択肢としては、「スカラー」と「スカラー演算子」と「行列演算子」があるが、「スカラー」だと交換関係を表す式(9)の左辺がゼロになるため直ちに除外できる。また、量子力学において「スカラー演算子」は運動量演算子\(\hat{\boldsymbol p}=-i\hbar\boldsymbol\nabla\)しか存在しないため、もしスピン角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol s}\)が「スカラー演算子」だとすると、その中に運動量演算子\(\hat{\boldsymbol p}\)が含まれていることになる。しかし、主量子数\(n\)や方位量子数\(l\)が変わると運動量\(\boldsymbol p\)も変わるため、スピン角量子数が半整数の値\(\frac{1}{2}\)しかないことに反する。よって、スピン角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol s}\)は「行列演算子」である結論付けられ、そのため、スピン角運動量の各成分も太字で表記していた。

軌道角運動量とスピン角運動量の比較

\begin{align*}軌道角運動量\boldsymbol l&⇆スピン角運動量\boldsymbol s\\方位量子数l&⇆スピン量子数s\\磁気量子数m_l&⇆スピン磁気量子数m_s\\軌道磁気モーメント\boldsymbol\mu_l&⇆スピン磁気モーメント\boldsymbol\mu_s\end{align*}

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次ページから…

次ページでは、パウリ行列\(\boldsymbol\sigma^j\)

\begin{align}\boldsymbol{\sigma}^{1}&=\begin{pmatrix}
0 & 1\\
1 & 0\\
\end{pmatrix}\\\boldsymbol{\sigma}^{2}&=\begin{pmatrix}
0 & -i\\
i & 0\\
\end{pmatrix}\\\boldsymbol{\sigma}^{3}&=\begin{pmatrix}
1 & 0\\
0 & -1\\
\end{pmatrix}\end{align}

はエルミート行列かつユニタリ行列であり、次の関係

\begin{align}\left\{\boldsymbol{\sigma}^j,\ \boldsymbol{\sigma}^k\right\}&=\boldsymbol{\sigma}^j\boldsymbol{\sigma}^k+\boldsymbol{\sigma}^k\boldsymbol{\sigma}^j\\&=2\delta^{jk}\boldsymbol{I}_2\\ \\\left[\boldsymbol{\sigma}^j,\ \boldsymbol{\sigma}^k\right]&=\boldsymbol{\sigma}^j\boldsymbol{\sigma}^k-\boldsymbol{\sigma}^k\boldsymbol{\sigma}^j\\&=2i\sum_{l=1}^3\epsilon^{jkl}\boldsymbol{\sigma}^l\end{align}

を満たすことを調べる。

 また、スピン角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol s}\)はパウリ行列\(\boldsymbol\sigma^j\)を用いて

\begin{align*}\hat{\boldsymbol s}&=\frac{\hbar}{2}(\boldsymbol \sigma^1,\boldsymbol\sigma^2,\boldsymbol\sigma^3)\end{align*}

と表すことができ、\(z\)成分の固有値は\(-\frac{1}{2}\)または\(\frac{1}{2}\)であることを確認する。


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