エネルギーと時間並進の生成子

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本ページでは…

 本ページでは、ハミルトン力学におけるネーターの定理を用いることにより、全エネルギー保存則から時間並進不変性が導かれることを確認し、ハミルトニアン\(\hat{ H}\)は時間並進の生成子であることを確認する。

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前ページでは、ハミルトン力学におけるネーターの定理を用いることにより、全運動量保存則から空間並進不変性が導かれることを確認し、運動量\(\hat{\boldsymbol P}\)は空間並進の生成子であることを確認した。

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内容

全エネルギー保存則と時間並進不変性

ラグランジュ力学におけるネーターの定理から、時間\(t\)を無限小定数\(\epsilon\)だけ(無限小)並進させても物理法則が変わらない時間並進不変性が系に存在するとき、次のネーター電荷\(N\)

\begin{align*}N={\epsilon}H\tag{1}\end{align*}

が保存し、全エネルギー保存則の背景には時間並進不変性があることを以前のページで見た。

 この逆の関係も成り立つことを見てみる。ハミルトン力学におけるネーターの定理より、全エネルギー\(H\)が保存するとき、物理量\(A\)が次の無限小変化量

\begin{align*}\delta_HA&=-\{N, A\}\\&=-\{\epsilon {H}, A\}\tag{2}\end{align*}

だけ変化する無限小変換で不変性が存在する。実際にこの量を計算すると

\begin{align*}\delta_HA&=\epsilon\frac{d A}{dt}\tag{3}\end{align*}

\begin{align*}\delta_HA&=-\{\epsilon {H}, A\}\\&=-\epsilon\sum_{b=1}^n\left(\frac{\partial H}{\partial q_b}\frac{\partial A}{\partial p_b}-\frac{\partial H}{\partial p_b}\frac{\partial A}{\partial q_b}\right)\\&=-\epsilon\sum_{b=1}^n\left(-\dot p_b\frac{\partial A}{\partial p_b}-\dot q_b\frac{\partial A}{\partial q_b}\right)\\&=\epsilon\sum_{b=1}^n\left(\frac{d p_b}{dt}\frac{\partial A}{\partial p_b}+\frac{d q_b}{dt}\frac{\partial A}{\partial q_b}\right)\\&=\epsilon\frac{d A}{dt}\end{align*}

 2行目への変形ではポアソン括弧の定義式

\begin{align}\left\{X,Y\right\}=\sum_{b=1}^n\left(\frac{\partial X}{\partial q_b}\frac{\partial Y}{\partial p_b}-\frac{\partial X}{\partial p_b}\frac{\partial Y}{\partial q_b}\right)\end{align}

を用い、3行目への変形ではハミルトンの正準方程式

\begin{align*}\frac{\partial H}{\partial q_i}=-\dot p_i\\\frac{\partial H}{\partial p_i}=\dot q_i\end{align*}

を用い、5行目への変形では運動量\(A\)の時間の全微分

\begin{align*}\frac{dA}{dt}=\sum_{b=1}^n\left(\frac{d q_b}{dt}\frac{\partial A}{\partial q_b}+\frac{d p_b}{dt}\frac{\partial A}{\partial p_b}\right)+\frac{\partial A}{\partial t}\end{align*}

に関して物理量\(A\)が時間に陽に依存していないとした次式

\begin{align*}\frac{dA}{dt}=\sum_{b=1}^n\left(\frac{d q_b}{dt}\frac{\partial A}{\partial q_b}+\frac{d p_b}{dt}\frac{\partial A}{\partial p_b}\right)\end{align*}

を用いた。

と計算でき、この無限小変化量は時間\(t\)が無限小定数\(\epsilon\)だけズレた時の物理量\(A\)の変化量であることが分かる。よって、無限小変換は

\begin{align*}A( q(t), p(t))\rightarrow A'( q'(t’), p'(t’))&=A( q(t), p(t))+\delta_H A\\&=A( q(t), p(t))+\epsilon\frac{dA}{dt}\\&=A( q(t+\epsilon), p(t+\epsilon))\tag{4}\end{align*}

となって、全エネルギー\( H\)が保存するとき、時間\(t\)が無限小定数\(\epsilon\)だけ移動する時間並進における不変性が存在する。

 以上より、時間並進不変性の背景には全エネルギー保存則があるとも言える。

エネルギーと時間並進の生成子

 式(4)を量子力学における演算子表示にすると

\begin{align*}\hat A(\hat{ q}(t),\hat{ p}(t))\rightarrow \hat A'(\hat{ q}'(t),\hat{ p}'(t))&=\hat A(\hat{ q}(t),\hat{ p}(t))+\delta_H A\tag{5}\end{align*}

となり、この無限小変換を引き起こす演算子は

\begin{align*}\hat U_H(\epsilon)&=e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat H}\tag{6}\end{align*}

と表すことができる。このことは、次のように物理量\(\hat A\)に左右から演算子\(\hat U_H(\epsilon)\)を作用させることで確認することができる。

\begin{align*}\hat U_H(\epsilon)\hat A\hat U_H^{-1}(\epsilon)=\hat A+\delta_H A\tag{7}\end{align*}

\begin{align*}\hat U_H(\epsilon)\hat A\hat U_P^{-1}(\epsilon)&=e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}\hat Ae^{-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}\\&=\left(1+\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}+\cdots\right)\hat A\left(1-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat {H}+\cdots\right)\\&\simeq\hat A+\frac{i}{\hbar}\epsilon\hat { H}\hat A-\frac{i}{\hbar}\hat A\epsilon\hat {H}\\&=\hat A+\frac{i}{\hbar}[\epsilon\hat {H},\hat A]\\&=\hat A+\delta_H A\tag{7}\end{align*}

 2行目への変形ではテイラー展開を行ない、3行目への変形では無限小定数\(\boldsymbol \epsilon\)の2次以上の項を無視し、4行目への変形では交換関係の記号を用い、5行目への変形では量子力学におけるネーターの定理(以前のページ参照)

\begin{align*}\delta_NA(q,p)&=\frac{i}{\hbar}[\hat N,\hat A(\hat q,\hat p)]\end{align*}

を用いた。

 式(6)より、エネルギー\(H\)は時間並進の無限小変換を作り出しているため、時間並進の生成子と呼ばれる。

時間並進の有限変換

 無限小変換を起こす演算子\(\hat U_H(\epsilon)\)の無限小定数\(\epsilon\)を有限定数\( a\)に置き換えることにより有限変換を起こす演算子

\begin{align*}\hat U_H( a)&=e^{\frac{i}{\hbar} a \hat H}\tag{8}\end{align*}

が得られる。このことは、物理量\(\hat A\)の左右から演算子\(\hat U_H( a)\)を作用させることで確認することができる。

\begin{align*}\hat U_H( a)\hat A\hat U_H^{-1}( a)=\hat A+ a\frac{d A}{dt }\tag{9}\end{align*}

\begin{align*}\hat U_H( a)\hat A\hat U_H^{-1}( a)&=e^{\frac{i}{\hbar} a \hat { H}}\hat Ae^{-\frac{i}{\hbar} a \cdot\hat { H}}\\&=\underbrace{e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}\cdots e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}}_{m}\hat A\underbrace{e^{-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}\cdots e^{-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}}_m\\&=\underbrace{e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}\cdots e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}}_{m-1}\left(\hat A+\epsilon\frac{dA}{dt}\right)\underbrace{e^{-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat {H}}\cdots e^{-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}}_{m-1}\\&=\underbrace{e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon\hat { H}}\cdots e^{\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}}_{m-2}\left(\hat A+2\epsilon\frac{d A}{dt}\right)\underbrace{e^{-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}\cdots e^{-\frac{i}{\hbar}\epsilon \hat { H}}}_{m-2}\\&=\cdots\\&=\hat A+m\epsilon\frac{d A}{dt}\\&=\hat A+ a\frac{d A}{dt}\end{align*}

 2行目への変形では次のように定義

\begin{align*} a=m\epsilon\end{align*}

した\(m\)を用いて展開し、3行目への変形では式(7)と式(3)を用い、4行目への変形では無限小定数\( \epsilon\)の2次以上の項を無視し、7行目への変形では再度

\begin{align*} a=m\epsilon\end{align*}

を用いた。

時間並進の演算子

 以上より、「\(i/\hbar\)」と「\(\epsilon\)や\( a\)などの変換のパラメーター」と「時間並進の生成子\(\hat{ H}\)」の積を指数関数の肩に上げたものは、空間並進を引き起こす演算子\(\hat U_H\)

\begin{align*}\hat U_H( \epsilon)&=e^{\frac{i}{\hbar} \epsilon \hat H}\tag{6}\\\hat U_H( a)&=e^{\frac{i}{\hbar} a \hat H}\tag{8}\end{align*}

となることが分かる。

 ハミルトニアン\(\hat{ H}\)は次の関係

\begin{align*}\hat{ H}^\dagger=\hat{ H}\tag{10}\end{align*}

を満たすエルミート演算子であるため、時間並進を引き起こす演算子\(\hat U_H\)は次の関係

\begin{align*}\hat U_H^\dagger=\hat U_H^{-1}\tag{11}\end{align*}

を満たすユニタリ演算子となる。

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次ページでは、ハミルトン力学におけるネーターの定理を用いることにより、全角運動量保存則から空間回転不変性が導かれることを確認し、角運動量\(\hat{\boldsymbol L}\)は空間回転の生成子であることを確認する。


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