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ウルマンカップリングとは
ウルマンカップリング(またはウルマン反応)とは、ハロゲン化アリールA-Xから金属銅(0) を用いてジアリールAr-Arを得るホモカップリング反応であり、1901年にフリッツ・ウルマンによって発見された(i)(ii)。
初期のウルマン反応は、基質が電子不足アリールのハロゲン化物に限定されており、過酷な反応条件(200℃以上)を必要とし、収率も不安定であった。しかし、パラジウム触媒を用いるカップリング反応が出現するまで、ビフェニル誘導体の標準的な合成法として用いられていた。
反応機構
反応機構としては「イオン反応機構」と「ラジカル反応機構」の二つが提唱されている。反応基質によって、どれかの反応機構のみが起こっている場合や、 複数の反応機構が同時に起こっている場合がある。
イオン反応機構
①酸化的付加
金属銅(0) にハロゲン化アリールAr-Xが酸化的付加する。
②還元反応
金属銅(0) によって有機銅化合物Ar-Cu-Xが還元されて、銅イオンの価数は2から1になる。
①と②の段階において別の方法で進む可能性があり、金属銅(0) によってハロゲン化アリールAr-Xの結合がラジカル開裂してアリールラジカルAr・が生成した後、ハロゲン化銅(I)と反応して有機銅化合物Ar-Cuが生成する可能性がある。ESPの測定でアリールラジカルが観測されるという結果からもこの機構で反応が起きている可能性もある
③酸化的付加
ハロゲン化アリールXが有機銅化合物Ar-Cuに酸化的付加する。
④還元的脱離
二つのアリール基が還元的脱離し、ジアリール Ar-Arが生成する。
段階③でみられる3価の銅イオンはいくつかの例でしか確認されていない。そのため、3価の銅イオンを経由しない反応機構として、銅錯体上のアリールアニオンAr:が もう一分子のハロゲン化アリールAr-Xに芳香族求核置換反応を起こしてジアリールAr-Arが生成する機構が提唱されている。電子求引性置換基を持つ基質の方が効率よく進むという結果からも、この機構で反応が起きている可能性がある。
ラジカル反応機構
①ラジカル開裂
初めに、金属銅(0)によってハロゲン化アリールAr-Xの結合がラジカル開製し、アリールラジカルAr・が生成する。
②ホモカップリング反応
アリールラジカルAr・の2分子が反応して、ジアリールAr-Arが生成し、ホモカップリング反応が完了する。
適用範囲
ハロゲン化アリール Ar-X
電子不足なアリール以外では反応は進行しづらい。また、ハロゲンXとしてはヨウ化物、臭化物、塩化物を用いることができ、この順に結合が強くなるため反応性は低くなる。
結合の強さ (kJ/mol)
C6H5-I…283
C6H5-Br…336
C6H5-Cl…383
溶媒
高温で反応を行なうため溶媒を使用しないことが多いが、使用する場合は高沸点溶媒のNMPやDMFが用いられる。
反応条件
低温では反応はほぼ進行せず、200℃以上の過酷な反応温度が必要となる。
応用例
クロスカップリング
一般的に、アリール構造が異なる二つのハロゲン化アリール Ar-X,Ar’-Xを使用すると、生成物はホモカップリング体Ar-Ar,Ar’-Ar’とクロスカップリング体Ar-Ar’との混合物となってしまう。ただし、ハロゲン構造も異なる二つのハロゲン化アリールAr-XとAr’-X’を用いて、どちらかを過剰量入れることによって、クロスカップリング体Ar-Ar’を優先的に得ることができる。
クロスカップリング体を得るもう一つの方法として、有機リチウム化合物を経由する方法もある。この方法では、はじめに一方のハロゲン化アリールAr-XとリチウムLiを反応させて有機リチウム化合物Ar-Liを調製する。ウルツカップリングのページでも述べたが、リチウムLiは反応性が低いためホモカップリング反応まで反応は進行せず、有機リチウム化合物Ar-Liで反応は止まる。次に、これにハロゲン化銅(I)CuXを反応させて有機銅化合物Ar2-CuXを調製した後、もう一方のハロゲン化アリールAr’-Xを反応させる(コーリー・ハウス・ボスナー・ホワイトサイズ反応を参照)。
穏和な反応条件
ウルマン反応に用いる金属銅(0)の代わりにパラジウム(0)やニッケル(0)を用いると穏和な条件でも反応は進行する(iii)。
パラジウムやニッケルは酸素によって容易に酸化されてしまうため実験時には厳密な脱気条件が必要である。しかし、亜鉛を還元剤として用いれば0価以外のニッケル錯体を用いることができる(iv)。
また、ニッケルの使用量を触媒量にまで減らすこともできる(v)。
添加しているヨウ化物イオンはニッケルからのジアリールの還元的脱離を促進させる (vi)。
2-チオフェンカルボン酸銅(I)の使用
2-チオフェンカルボン酸銅(I)CuTCを用いると穏和な条件(室温~100℃以下)でもウルマン反応が進む(vii)。
反応機構としては、はじめに、ハロゲン化アリールAr-Xが2-チオフェンカルボン酸銅(I) に酸化的付加する。次に2-チオフェンカルボン酸銅(I)によって有機銅化合物が還元されて、銅イオンの価数は3から2になる。さらに、銅イオンの価数が2から1に還元されてAr-Cuになった後、ハロゲン化アリールAr-Xが有機銅化合物Ar-Cuに酸化的付加する。最後に、二つのアリール基が還元的脱離し、ジアリールAr-Arが生成する。
実験手順
反応例
ジヨードビフェニルを反応させるとビフェニレンが得られる。
その他
鉄や銅などの触媒を用いたクロスカップリング反応では、副反応としてウルマン反応が進行する可能性がある。
関連反応
・ウルマン縮合
参考文献
(j) Ullmann, F.; Bielecki, J. Chem. Ber.1901, 34, 2174.
(ii) Ullmann, F. Ann.1904, 332, 38.
(iii) Semmelhack, M. F.; Helquist, P. M.; Jones, I.. D. J. Am. Chem. Soc.1971, 93, 5908-5910
(iv) Kende, A. S.; Liebeskind, L. S.; Braitach. D. M. Tetrahedron Lett. 1975, 16, 3375.
(v) Iyoda, M.; Otsuka, H.; Sato, K.; Nisato, N.; Oda M. Bull. Chem. Soc. Jpn. 1990, 63, 80.
(vi) Colon, I.; Kelsey, D. R J. Org. Chem.1986, 51, 2627-2637.
(vii) Zhang, S.; Zhang, D.; Liebeskind, L. S. J. Org. Chem. 1997, 62, 2312.
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