ウルツカップリング

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ウルツカップリングとは

 ウルツカップリング(またはウルツ反応)とは、ハロゲン化アルキルR-Xを金属ナトリウムで処理して高級アルカンR-Rを得るホモカップリング反応であり、1832年にシャルル・アドルフ・ウルフによって発見された(i)(ii)

ウルツカップリングの反応式
ウルツカップリングの反応式

 ナトリウムを含むアルカリ金属は多くの官能基と反応してしまうため、この反応で使用できる基質は限られ、後述する例を除いてウルツカップリングの有用性は低いが、カップリング反応の元祖であり、モデル例として広く知られている。

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反応機構

ウルツカップリングの反応機構
ウルツカップリングの反応機構

①1電子移動(SET)

 初めに、金属ナトリウムNaによってハロゲン化アルキルR-Xの結合がラジカル開裂し、アルキルラジカルR・が生成する。

②1 電子移動(SET)

 アルキルラジカルR・と金属ナトリウムNaとが反応して有機ナトリウム中間体R-Naが生成し、ハロゲン-金属交換反応が完了する。

③ホモカップリング

 次に、ハロゲン化アルキルR-Xと有機ナトリウム中間体R-Naが反応して、高級アルカンR-Rが生成し、ホモカップリング反応が完了する。この反応はSN2反応に似ているが、詳しいメカニズムは不明である。

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副反応

 副反応としては、塩基性度の高い有機ナトリウム中間体R-Naがハロゲンの‪α‬位のプロトンを引き抜きアルケンが生じる反応が起こる。

ウルツカップリングの副反応
ウルツカップリングの副反応

 また、転位反応も起きやすい。

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適用範囲

ハロゲン化アルキルR-X

 アルカリ金属は多くの官能基と反応してしまうため、この反応で使用できる基質は極めて限られ、ほとんどの場合、単純なハロゲン化アルキルが用いられる。ハロゲンXとしてはヨウ化物、臭化物、塩化物を用いることができ、この順に結合が強くなるため反応性は低くなる。

結合の長さ(Å)、結合の強さ (kJ/mol)

CH3-I…2.139、238

CH3-Br…1.929、293

CH3-Cl…1.748、356

CH3-F…1.385、460

金属

 アルカリ金属としては、カリウムKやナトリウムNa、リチウムLiを用いることができるが、リチウムLiは反応性が特に低い。そのため、カリウムKやナトリウムNaを用いてアルキル金属を調製しようとするとウルツカップリングまで反応が進行してしまうが、リチウムLiではウルツカップリングまで反応は進行しづらくアルキルリチウムR-Liを調整することができる。逆に言うと、リチウム試薬調製反応(リチオ化)やグリニャール試薬調製反応の副反応がウルツカップリングになる。アルカリ金属以外では亜鉛などを用いることができる。

溶媒

 アルカリ金属は多くの官能基と反応してしまうため、溶媒としては非プロトン性溶媒のエーテルが主に用いられる。

反応条件

 有機ナトリウム中間体が失活しないように脱水条件で行なう必要がある。また、ナトリウム金属は酸化されやすいため脱気条件で行なう。

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応用例

クロスカップリング

 一般的に、アルキル構造が異なる二つのハロゲン化アルキルR-XとR’-Xを使用すると、生成物はホモカップリング体R-R,R’-R’とクロスカップリング体R-R’の混合物となってしまう。ただし、ハロゲン構造も異なる二つのハロゲン化アルキルR-XとR’-X’を用いて、どちらかを過剰量入れることによって、クロスカップリング体R-R’を優先的に得ることができる。

小員環の合成

 1,3-ジハロゲン化アルキルにウルツカップリングを行なうことによって容易に3員環を合成することができ、このほかにも4員環、5員環、6員環などの小屋の合成できる。 また、1-ブロモ-3-クロロシクロブタンをウルツカップリングすることによって、ビシクロブタンの合成が達成されている(iii)

ウルツカップリングによるビシクロブタンの合成
ウルツカップリングによるビシクロブタンの合成

アルケン・アルキンの合成

 ビシナルジハロゲンアルキルをウルツカップリングさせるとアルケンが生成する。

ビシナルジハロゲンアルキルのウルツカップリング
ビシナルジハロゲンアルキルのウルツカップリング

 また、ビシナルジハロゲンアルケンをウルツカップリングさせるとアルキンが生成する。

ビシナルジハロゲンアルケンのウルツカップリング
ビシナルジハロゲンアルケンのウルツカップリング

有機合成以外

 有機合成以外の例として、ハロゲン化物のカップリングに用いられる。例えば、塩化トリメチルシランをナトリウム処理するとヘキサメチルジシランが生成し、塩化ジフェ ニルホスフィンを用いるとテトラフェニルジホスフィンが、臭化トリフェニルゲルマンを用いるとヘキサフェニルジゲルマンが生成する(iv)

有機合成以外でのウルツカップリング
有機合成以外でのウルツカップリング

 また、ジハロゲン化物を用いればポリシランやポリスタナン、ポリゲルマンなどが得られる。

実験手類

ウルツカップリングの実験手順
ウルツカップリングの実験手順(iii)

 金属ナトリウムはエーテル溶媒に溶解しないため、反応速度を上げるために溶媒1,4-ジオキサンを用いてrefluxし溶融ナトリウムにする方法もある。

 テフロンはナトリウムのディスパージョンに侵されるため使用してはならない。

反応例

 1-クロロ-1-プロポキシメタンを反応させると1,2-ジプロポキシエタンが得られる (vi)

ウルツカップリングによる1,2-ジプロポキシエタンの合成
ウルツカップリングによる1,2-ジプロポキシエタンの合成

 ペンタエリトリチルテトラブロマイドを反応させるとスピロペンタンが得られる(vii)

ウルツカップリングによるスピロブタンの合成
ウルツカップリングによるスピロペンタンの合成

その他

 先ほども述べたが、リチウム試薬調製反応(リチオ化)やグリニャール試薬調製反応では、副反応でウルツカップリングが起きることがある。

関連反応

ウルマンカップリング

・ウルツ-フィッティッヒ反応

参考文献

(i)Wurtz, A. Ann. Collapse. Phys. 1855, 44, 275-312.

(ii) Wurtz, A. Ann. Blade. Pharm.1855, 96, 364-375.

(iii)Lampman G. M.; Aumiller, J. C. Org. Synth.1970, 51, 55.

(iv)Morgan, G. T.; Drew, H. D. K. J. Chem. Soc. 1925, 127, 1760.

(v)Walter, C. Chem. Soc. Rev. 2016, 45, 5187-5199.

(vi)Gist, L.A. Jr.; Mason, C. T. J. Am. Chem. Soc. Rev. 1954, 76, 3728–3729

(vii)Applequist , D. E. ; Fanta, G. F. Henrickson,; B. W. J. Org. Chem.1953, 23, 1715.


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