HOME > 量子力学 > 電子のスピン >異常ゼーマン効果
本ページでは…
本ページでは、原子の電子には軌道磁気モーメントとは別の磁気モーメントであるスピン磁気モーメントが存在することを確認する。
また、原子に磁場をかけたとき、軌道磁気モーメントのみを考慮した正常ゼーマン効果で考えられる以上のエネルギー準位の分裂が、軌道磁気モーメント及びスピン磁気モーメントによって起きる異常ゼーマン効果を確認する。
前ページまで…
前ページでは、原子に磁場\(\boldsymbol B\)をかけると縮重しているエネルギー準位が複数に分裂するゼーマン効果が見られることを確認した。
また、軌道角運動量\(\boldsymbol l\)と磁場\(\boldsymbol B\)が相互作用して生じる正常ゼーマン効果では、方位量子数\(l\)を用いて分裂する数を\(2l+1\)と表すことができ、古典論的には原子核の周りを電子が公転することにより軌道磁気モーメント\(\boldsymbol\mu\)が生じ、この軌道磁気モーメント\(\boldsymbol\mu\)と磁場\(\boldsymbol B\)が相互作用してエネルギー準位が分裂したと説明できることを確認した。
内容
ゼーマン効果
原子に磁場をかけると、電子のエネルギー準位が複数に分裂することがあり、この現象をゼーマン効果と言う。原子に電場をかけたときも、電子のエネルギー準位は複数に分裂することもあるが、この場合はシュタルク効果と言う。
異常ゼーマン効果
原子軌道において、磁気量子数\(m_l\)が異なっていても磁場をかけなければエネルギー準位は分裂しない。では、磁場をかけるとどうなるだろうか。正常ゼーマン効果のみを考えると、主量子数が\(n\)で方位量子数が\(l\)の軌道は次のように\(2l+1\)個に等間隔で分裂するはずである。
しかし、実際に実験をしてみると正常ゼーマン効果で考えられるエネルギー準位の分裂よりも複雑になっており、次のように等間隔で分裂していた。
このような現象は磁場が存在するときのみ見られたため、軌道磁気モーメントとは別の新たな磁場モーメントが存在して、それが磁場と相互作用していると推測される。古典論的には軌道磁気モーメントは電子の公転により生じていたが、他に考えられる磁気モーメントとして電子の自転により生じるものがあり、自転を表すスピンという言葉を用いて新たな磁気モーメントをスピン磁気モーメントと呼んだ(後に分かったことだが、電子がもし自転していると仮定すると自転速度は光速を超えなければならず相対性理論に反するため、今では電子は自転していないと考えられている)。
※初期の実験では装置の精度が悪くて分からなかったことだが、実際には、磁場をかけなくてもスピン-軌道相互作用によって微細構造と呼ばれる小さな分裂が見られ(後のページ参照)、これは軌道磁気モーメントとスピン磁気モーメントが相互作用して分裂したものである。
このように、原子に磁場をかけたとき、軌道磁気モーメントのみを考慮した正常ゼーマン効果で考えられる以上のエネルギー準位の分裂が、軌道磁気モーメント及びスピン磁気モーメントによって起きる現象を異常ゼーマン効果と呼ぶ。異常ゼーマン効果までをハミルトニアンに含めた方程式をパウリ方程式と呼び、後のページで導く。
次ページから…
次ページでは、スピン磁気モーメントを生むスピン角運動量演算子\(\hat{\boldsymbol s}\)の各成分が次の交換関係
を満たす行列演算子であり、\(z\)成分の固有値\(\boldsymbol s_z\)はスピン磁気量子数\(m_s\)を用いて
であることを、軌道角運動量\(\boldsymbol l\)の性質から類推する。