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本ページでは、4元確率流密度\(j^\mu\)を用いたクライン-ゴルドン方程式における流れの保存の関係式
\begin{align*}\partial_\mu j^\mu=0\end{align*}
を確認し、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\phi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことを確認する。
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前ページでは、クライン-ゴルドン方程式がポアンカレ変換(ローレンツ変換と時空座標の並進)の下で不変であることをみた。
内容
4元確率流密度
確率密度\(\rho\)と確率流密度\(\boldsymbol j\)と呼ばれる量を次のように定義
\begin{align*}\rho&=\frac{i\hbar}{2mc^2}\left(\phi\frac{\partial \phi^*}{\partial t}-\frac{\partial \phi}{\partial t}\phi^*\right)\tag{1}\\\boldsymbol j&=-\frac{i\hbar}{2m}(\phi^*\nabla\phi-(\nabla\phi^*)\phi)\tag{2}\end{align*}
したとき、シュレーディンガー方程式のときと同様(以前のページ参照)に、クライン-ゴルドン方程式においても次の流れの保存の関係式
\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}\rho+\nabla\cdot \boldsymbol j=0\tag{3}\end{align*}
を満たす。この式は、微分ベクトル
\begin{align}\partial^{\mu}&=\frac{\partial}{\partial x_\mu}\\&=\left(\frac{\partial}{\partial x_0},\frac{\partial}{\partial x_1},\frac{\partial}{\partial x_2},\frac{\partial}{\partial x_3}\right)\\&=\left(\frac{1}{c}\frac{\partial}{\partial t},-\frac{\partial}{\partial x},-\frac{\partial}{\partial y},-\frac{\partial}{\partial z}\right)\tag{4}\end{align}
で表した次の4元確率流密度\(j^\mu\)
\begin{align*}j^\mu&=(\rho c,\boldsymbol j)\\&=\frac{i\hbar}{2m}(\phi^*\partial^\mu\phi-(\partial^\mu\phi^*)\phi)\tag{5}\end{align*}
を用いて
\begin{align*}\partial_\mu j^\mu=0\tag{6}\end{align*}
と表すことができる。シュレーディンガー方程式のときと同様に、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\phi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことが保証され、そのことは後ほど確認してみる。
流れの保存の導出
ここでは、クライン-ゴルドン方程式においても流れの保存の関係式が成り立つことを見てみる。まず、クライン-ゴルドン方程式
\begin{align*}\left(\partial_\mu\partial^\mu+\frac{m^2c^2}{\hbar^2}\right)\phi=0\tag{7}\end{align*}
と両辺の複素共役をとった次の方程式
\begin{align*}\left(\partial_\mu\partial^\mu+\frac{m^2c^2}{\hbar^2}\right)\phi^*=0\tag{8}\end{align*}
を準備する。式(7)の両辺に左から波動関数\(\phi^*\)を、式(8)の両辺に左から波動関数\(\phi\)をかけると
\begin{align*}\phi^*\partial_\mu\partial^\mu\phi+\frac{m^2c^2}{\hbar^2}\phi^*\phi&=0\tag{9}\\\phi\partial_\mu\partial^\mu\phi^*+\frac{m^2c^2}{\hbar^2}\phi\phi^*&=0\tag{10}\end{align*}
となり、2式の差をとると
\begin{align*}\phi^*\partial_\mu\partial^\mu\phi-\phi\partial_\mu\partial^\mu\phi^*=0\tag{11}\end{align*}
となる。最後に、部分積分の形から積の積分の形に変更すると
\begin{align*}\partial_\mu(\phi^*\partial^\mu\phi-(\partial^\mu\phi^*)\phi)=0\tag{12}\end{align*}
となり、両辺に\(\frac{i\hbar}{2m}\)を掛けると、
\begin{align*}\partial_\mu\frac{i\hbar}{2m}\left(\phi^*\partial^\mu\phi-(\partial^\mu\phi^*)\phi\right)=0\tag{13}\end{align*}
となって、4元確率流密度\(j^\mu\)を用いて表すと
\begin{align*}\partial_\mu j^\mu=0\tag{6}\end{align*}
となって、流れの保存が導かれる。式(12)の両辺に\(\frac{i\hbar}{2m}\)を掛けた理由は、クライン-ゴルドン方程式における確率流密度\(\boldsymbol j\)をシュレーディンガー方程式における確率流密度\(\boldsymbol j\)と揃えるためである。
流れの保存の応用
次に、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\phi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことを確認してみる。このことは、次のように確率密度\(\rho\)の全空間積分を時間微分したときにゼロになることを確かめればよい(ここで、\(d^3\boldsymbol x=dxdydz\)としている)。
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=0\tag{14}\end{align*}
まず、確認すべき式(14)の左辺を変形して流れの保存の関係式を用いると
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho&=\int d^3\boldsymbol x\ \frac{\partial}{\partial t}\rho\\&=-\int d^3\boldsymbol x\ \nabla\cdot \boldsymbol j\tag{15}\end{align*}
となり、ガウスの発散定理
\begin{align*}\int d^3\boldsymbol x\ \nabla\cdot \boldsymbol j=\int_S dS\ \boldsymbol n\cdot \boldsymbol j\tag{16}\end{align*}
を用いると
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=-\int_S dS\ \boldsymbol n\cdot \boldsymbol j\tag{17}\end{align*}
と表すことができる。最後に、「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\phi\)がゼロに収束すること」を用いると、空間の無限遠では常に確率流密度\(\boldsymbol j\)
\begin{align*}\boldsymbol j&=-\frac{i\hbar}{2m}(\varPsi^*\nabla\varPsi-(\nabla\varPsi^*)\varPsi)\tag{2}\end{align*}
はゼロになるはずであり、式(17)の右辺において無限遠で面積分を行なえばゼロとなり式(14)が成り立つことが分かる。
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=0\tag{14}\end{align*}
ここで確認だが、シュレーディンガー方程式のときと同様に、確率密度及び確率流密度の具体的な形は使っておらず、確率密度\(\rho\)の全空間積分が保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分が一定となる)ためには、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\phi\)がゼロに収束すること」さえ満たせば、確率密度\(\rho\)と確率流密度\(\boldsymbol j\)はどのような形でもよいことに注意する。
次ページから…
次ページでは、クライン-ゴルドン方程式における確率密度\(\rho\)
\begin{align*}\rho&=\frac{i\hbar}{2mc^2}\left(\phi^*\frac{\partial \phi}{\partial t}-\frac{\partial \phi^*}{\partial t}\phi\right)\end{align*}
が負の値もとり、シュレーディンガー方程式で行なえた確率解釈がクライン-ゴルドン方程式では困難であることを確認する。また、クラインゴルドン方程式において、エネルギー\(E\)が負の値をとるとき、確率密度\(\rho\)が負の値になることも確認する。
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