作用積分の不定性

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 本ページでは、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)に全微分項\(\partial_\mu X^\mu\)を加えても作用積分\(S\)が変わらない性質である「作用積分の不定性」について調べる。

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前ページでは、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)が時間\(t\)と場\(\phi\)、そして、場の時空微分\(\partial_\mu\phi\)から成り立つと仮定し、ラグランジアン密度の時空積分である作用積分\(S\)に作用原理を施すことによってラグランジュの運動方程式

\begin{align}\partial_\mu\left(\frac{\partial \mathscr{L}}{\partial \partial_\mu\phi}\right)-\frac{\partial \mathscr{L}}{\partial\phi}=0\end{align}

を求めた。

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内容

作用積分の不定性

 ある関数\(X^\mu\)に場\(\phi\)が含まれているとき、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)に全微分項\(\partial_\mu X^\mu\)を加えても作用積分\(S\)は変わらない。このように作用積分\(S\)が一意的に定まらない性質を作用積分の不定性と呼ぶ。全微分項\(\partial_\mu X^\mu\)は運動方程式に関与しないため、以後無視する。

 ラグランジアン密度\(\mathscr L\)に全微分項\(\partial_\mu X^\mu\)を加えても作用積分\(S\)が変わらないことは次のように確かめることができる。全微分項\(\partial_\mu X^\mu\)からつくられる作用積分\(S\)

\begin{align}S=\int{d}^4x\ \partial_\mu X^\mu\tag{1}\end{align}

はガウスの発散定理

\begin{align}\int{d}^4x\ \partial_\mu X^\mu=\int_{\partial V} {\text d}\sigma_\mu X^\mu\tag{2}\end{align}

によって表面積分

\begin{align}S=\int_{\partial V} {\text d}\sigma_\mu X^\mu\tag{3}\end{align}

となり、\(X^\mu\)を構成するスカラー場\(\phi\)の境界条件

\begin{align}\phi(x)|_{\scriptsize {x^\mu\rightarrow\pm\infty}}&=0\tag{4}\end{align}

を施すと作用積分\(S\)はゼロとなる。そのため、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)に全微分項\(\partial_\mu X^\mu\)を加えても作用積分\(S\)は変わらず、運動方程式は変化しない。

不定性の例

 例として、2つのスカラー場\(\phi\)とダランベルシアン\(\partial_\mu\partial^\mu\)で作られる次の4つの項

\begin{align}\ \partial_\mu\phi\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu(\phi\partial^\mu&\phi),\ \phi\partial_\mu\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu\partial^\mu(\phi^2)\end{align}

からラグランジアン密度が構成されるとき、どの項が運動方程式に関与するかを考える。

 まず、\(\partial_\mu(\phi\partial^\mu\phi)\)は全微分項であるためラグランジアン密度\(\mathscr L\)に加えても作用積分\(S\)は変わらず運動方程式に関与しないため無視することができる。また、\(\partial_\mu\partial^\mu(\phi^2)\)は部分積分を行なうと次のように変形

\begin{align*}\partial_\mu\partial^\mu(\phi^2)&=\partial_\mu(2\phi\partial^\mu\phi)\\&=2\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi+2\phi\partial_\mu\partial^\mu\phi\\&=2\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi+2\partial_\mu(\phi\partial^\mu\phi)-2\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\\&=2\partial_\mu(\phi\partial^\mu\phi)\tag{5}\end{align*}

することができ、これも全微分項のため無視できる。さらに、\(\phi\partial_\mu\partial^\mu\phi\)は部分積分を行なうと次のように変形

\begin{align*}\phi\partial_\mu\partial^\mu\phi&=\partial_\mu(\phi\partial^\mu\phi)-\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\tag{6}\end{align*}

することができ、全微分項\(\partial_\mu(\phi\partial^\mu\phi)\)を無視すると符号は逆だが\(\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\)と同じであることが分かる。

 よって、上記の4つの項のうち、運動方程式に関与する項は\(\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\)だけであることがわかる。


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