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本ページでは、光速\(c\)とディラック定数\(\hbar\)を無次元の\(1\)と置く自然単位系について調べ、自然単位系では質量、時間の逆数、長さの逆数、エネルギー、運動量の次元は全て等しく、どのような物理量でも質量の次元で表せることを確認する。
内容
自然単位系とは
相対論的量子力学や場の量子論に従う素粒子の質量は非常に軽く、光速\(c\)
\begin{align*}c=2.99792458×10^8 \ \text{m/s}\tag{1}\end{align*}
に近い速度で運動することができ、また、素粒子の持つ角運動量はかなり小さく、その大きさはディラック定数\(\hbar\)
\begin{align*}\hbar=1.054571817\cdots×10^{-34}\ \text{kg·m}^2\text{/s}\tag{2}\end{align*}
に近い値となる。そのため、クライン-ゴルドン方程式やディラック方程式
\begin{align}\left(\partial_\mu\partial^\mu+\frac{m^2c^2}{\hbar^2}\right)\phi=0\tag{3}\\\left(i\gamma^\mu\partial_\mu-\frac{mc}{\hbar}\right)\boldsymbol\psi=0\tag{4}\end{align}
のような場の量子論や相対論的量子論の方程式において光速\(c\)やディラック定数\(\hbar\)が度々現れる。そのため、もし、光速\(c\)やディラック定数\(\hbar\)を無次元量の\(1\)
\begin{align}c&=2.99792458×10^8 \ \text{m/s}=1\tag{5}\\\hbar&=1.054571817\cdots×10^{-34}\ \text{kg·m}^2\text{/s}=1\tag{6}\end{align}
と置くと方程式はシンプルになり、このような単位の取り方を自然単位系と呼ぶ。実際に、自然単位系においてクライン-ゴルドン方程式とディラック方程式は
\begin{align}\left(\partial_\mu\partial^\mu+m^2\right)\phi=0\tag{7}\\\left(i\gamma^\mu\partial_\mu-m\right)\boldsymbol\psi=0\tag{8}\end{align}
とシンプルに表記できる。
自然単位系における次元
自然単位系のメリットは式がシンプルになるだけではなく、物理量の次元についても見通しが良くなる。ここで、物理量の次元を角括弧[]を用いて[物理量]と表す。
例えば、式(5)より自然単位系では速度の次元は無次元
\begin{align*}[速度]=[1]\tag{9}\end{align*}
であり、式(5)を変形すると
\begin{align}1\ \text s=2.99792458×10^8 \ \text{m}\tag{10}\end{align}
となり、自然単位系では「秒」は「光が1秒に進む長さ(光秒)」と等しくなり、時間の次元は長さの次元に等しくなる。
\begin{align*}[時間]=[長さ]\tag{11}\end{align*}
このことは、相対性理論において時間と長さが対等であることを表している。また、エネルギーの次元は
\begin{align*}[エネルギー]=[運動量×速度]=[質量×速度×速度]\tag{12}\end{align*}
あるから、式(11)より自然単位系では
\begin{align*}&[エネルギー]=[運動量]=[質量]\tag{13}\end{align*}
が成り立つ。
さらに、式(6)より自然単位系では角運動量の次元は無次元
\begin{align*}[角運動量]=[1]\tag{14}\end{align*}
であり、式(6)を変形すると
\begin{align}1\ \text {/s}=1.054571817\cdots×10^{-34}\ \text{kg·m}^2\text{/s}^2\tag{15}\end{align}
となり、自然単位系では「秒の逆数」は「角振動数が1ラジアン毎秒である光子が持つエネルギー」と等しくなり、時間の逆数の次元はエネルギーの次元に等しくなる。
\begin{align*}[1\text/時間]=[エネルギー]\tag{16}\end{align*}
このことは、エネルギー\(E\)と演算子の関係
\begin{align*}E\rightarrow i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\tag{17}\end{align*}
のように、量子力学において時間の逆数とエネルギーが対等であることを表している。また、式(16)に式(11)と式(13)を用いると
\begin{align*}[1\text/長さ]=[運動量]\tag{16}\end{align*}
となり、運動量と演算子の関係
\begin{align*}p_i\rightarrow -i\hbar\frac{\partial}{\partial x_i}\tag{17}\end{align*}
のように、長さの逆数と運動量が対等であることも表している。
以上をまとめると
\begin{align*}&[速度]= [角運動量]=[1]\\&[質量]=[1/長さ]=[1/時間]=[エネルギー]=[運動量]\end{align*}
となり、全ての物理量の次元は質量の次元で表せることがわかる。
自然単位系の注意点
ここで一点注意だが、自然単位系では方程式がシンプルになった一方で単位は複雑になっているため、数値計算は簡単にはならない。
例えば、静止エネルギーの式
\begin{align*}E(\text{kg·m}^2\text{/s}^2)=m(\text{kg})c^2(\text{m}^2\text{/s}^2)\tag{18}\end{align*}
を、式(10)
\begin{align}1\ \text s=2.99792458×10^8 \ \text{m}\tag{10}\end{align}
を用いて自然単位系で書くと
\begin{align*}E(\text{kg/}(2.99792458×10^8)^2)=m(\text{kg})\tag{19}\end{align*}
となり、方程式の定数を単位に押し付けて隠しただけであることが分かる。特に、自然単位系の単位から国際単位系の単位を復元することはしばしば困難なときがあり、その場合は国際単位系に立ち返って式変形を行なう必要がある。
次ページから…
次ページでは、素粒子論では粒子数の変化が起こり、1粒子が従う波動関数\(\phi\)から構成されているクライン-ゴルドン方程式
\begin{align}\left(\partial_\mu\partial^\mu+m^2\right)\phi=0\end{align}
では粒子数の変化を表現できないことを見る。また、この問題は\(\phi\)を波動関数としてではなく場として解釈する場の量子論によって解決する可能性があることを見る。
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