場の理論におけるネーターの定理(ラグランジュ力学)

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 本ページでは、連続的な無限小変換によって作用積分\(S\)が変わらない、つまり、物理法則が変わらないとき、ネーターカレント\(N^\mu\)

\begin{align*}N^\mu=\sum_{i=1}^n\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial_\mu\phi_i)}-K^\mu\end{align*}

における流れの保存

\begin{align*}\partial_\mu N^\mu=0\end{align*}

が成り立つことを表す「場の理論におけるネーターの定理」を導く(関数\(K^\mu\)は\(\phi\)と\(\partial_\mu\phi\)から構成される)。

 また、このとき、\(N^0\)の空間積分で表される物理量\(Q\)

\begin{align*}Q=\int d^3\boldsymbol x\ N^0\end{align*}

は次の関係式

\begin{align*}\frac{d}{dt}Q=0\end{align*}

を満たし、保存量となることを確認する。

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前ページでは、ハミルトン力学におけるネーターの定理を用いることにより、全角運動量保存則から空間回転不変性が導かれることを確認し、角運動量\(\hat{\boldsymbol L}\)は空間回転の生成子であることを確認した。

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内容

ネーターの定理とネーター電荷

 場の理論において、系に連続的な不変性(不変性ではなく、対称性ともいう)が存在するとき、ネーターカレント\(N^\mu\)と呼ばれる物理量は流れの保存

\begin{align*}\partial_\mu N^\mu=0\tag{1}\end{align*}

を満たし、\(N^0\)の空間積分を物理量\(Q\)

\begin{align*}Q=\int d^3\boldsymbol x\ N^0\tag{2}\end{align*}

としたとき、次の関係式

\begin{align*}\frac{d}{dt}Q=0\tag{3}\end{align*}

を満たして物理量\(Q\)は保存量となる。この関係を場の理論におけるネーターの定理と呼ぶ。場の理論における連続的な不変性には、時空並進不変性やローレンツ不変性などが存在し、それぞれ、時空座標をずらしても、時空座標を回転させても作用積分(つまり、物理法則)が変わらないことを示す。

 ここで注意だが、ネーターの定理では連続的な不変性における定理であり、離散的な不変性(時空反転不変性など)ではネーターの定理が成り立つとは限らない。

ネーターの定理の導出

 不変性と保存量の関係性を表すネーターの定理を導く。

ネーターカレントの導出

 ある場の運動方程式がラグランジアン密度\(\mathscr L(\phi,\partial_\mu \phi)\)で表されるとき、作用積分\(S\)は

\begin{align*}S=\int \text dx^4\ \mathscr L\tag{4}\end{align*}

となり、作用原理から

\begin{align*}\delta S&=\int \text dx^4\ \mathscr L\\&=0\tag{5}\end{align*}

が成り立つ(以前のページを参照)。もし、ラグランジアン密度\(\mathscr L(\phi,\partial_\mu \phi)\)に全微分項\(\partial_\mu K^\mu(\phi,\partial_\mu \phi)\)(関数\(K^\mu\)は\(\phi\)と\(\partial_\mu \phi\)から構成される)を加えたラグランジアン密度\(\mathscr L'(\phi,\partial_\mu \phi)\)

\begin{align*}\mathscr L'(\phi,\partial_\mu \phi)=\mathscr L(\phi,\partial_\mu \phi)+\partial_\mu K^\mu(\phi,\partial_\mu \phi)\tag{6}\end{align*}

を定義したとき、作用積分\(S’\)は

\begin{align*}S’&=\int \text dx^4\ \mathscr L’\\&=\int \text dx^4\ \mathscr L+\int \text dx^4\ \partial_\mu K^\mu\tag{7}\end{align*}

となり、作用積分\(S’\)の変分\(\delta S’\)を計算すると

\begin{align*}\delta S’&=\delta S\tag{8}\end{align*}

\begin{align*}\delta S’&=\delta\int \text dx^4\ \mathscr L'(\phi,\partial_\mu \phi)\\&=\delta\int \text dx^4\ \mathscr L(\phi,\partial_\mu \phi)+\delta\int \text dx^4\ \partial_\mu K^\mu(\phi,\partial_\mu \phi)\\&=\delta S+\int \text dx^4\ \partial_\mu \delta K^\mu(\phi,\partial_\mu \phi)\\&=\delta S+\int_{\partial V} {\text d}\sigma_\mu \delta K^\mu(\phi,\partial_\mu \phi)\\&=\delta S\end{align*}

2行目への変形では式(6)を用い、3行目への変形では式(5 )を用い、4行目への変形ではガウスの発散定理

\begin{align}\int{\text d}^4x\ \partial_\mu X^\mu=\int_{\partial V} {\text d}\sigma_\mu X^\mu\end{align}

を用いて4次元体積\(V\)積分を時空の無限遠方の\(\partial V\)上での表面積分に置き換え、5行目への変形では変分において無限遠で場が固定されており、\(\phi\)と\(\partial_\mu\phi\)の値が変わらないこと

\begin{align}\delta \phi(x)|_{\scriptsize {x^\mu=\pm\infty}}&=0\\\delta \partial\phi(x)|_{\scriptsize {x^\mu=\pm\infty}}&=0\end{align}

を用いた。

となる。つまり、作用積分\(S\)の変分\(\delta S\)と等しくなり、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)に全微分項\(\partial_\mu K^\mu(\phi,\partial_\mu \phi)\)を加えてラグランジアン密度\(\mathscr L’\)になっても物理法則は変化しない。

 次に、場\(\phi_{i}\)が次のような無限小変換

\begin{align}\phi_{i}&\rightarrow \phi’_{i}=\phi_{i}+\delta_Q\phi_{i}\tag{9}\end{align}

するとき、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)の変化量\(\delta_N\mathscr L\)は

\begin{align}\delta_Q\mathscr L&=\partial_\mu\left(\sum_{i=1}^n\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _\mu \phi_i)}\right)\tag{10}\end{align}

\begin{align}\delta_Q\mathscr L&=\sum_{i=1}^n\left(\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial \phi_i}+\delta_Q (\partial _\mu \phi_i)\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _\mu \phi_i)}\right)\\&=\sum_{i=1}^n\left\{\delta_Q \phi_i\partial_\mu\left(\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _\mu \phi_i)}\right)+\partial_\mu\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _\mu \phi_i)}\right\}\\&=\partial_\mu\left(\sum_{i=1}^n\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _\mu \phi_i)}\right)\end{align}

2行目への変形では場の理論におけるオイラー-ラグランジュ方程式(以前のページを参照)

\begin{align}\partial_\mu\left(\frac{\partial \mathscr{L}}{\partial (\partial_\mu\phi_i)}\right)-\frac{\partial \mathscr{L}}{\partial\phi_i}=0\end{align}

と次の無限小変換の関係式

\begin{align}\delta_Q (\partial_\mu\phi_i)=\partial_\mu\delta_Q \phi_i\end{align}

を用いた。

となる。そして、この無限小変換で物理法則が変わらないとき、式(6)から

\begin{align*}\delta_N\mathscr L=\partial_\mu K^\mu\tag{11}\end{align*}

が成り立つため、式(10)と式(11)より次の式

\begin{align*}\partial_\mu\left[\sum_{i=1}^n\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _\mu \phi_i)}-K^\mu\right]=0\tag{12}\end{align*}

が成り立ち、ネーターカレントと呼ばれる次の量

\begin{align*}N^\mu=\sum_{i=1}^n\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _\mu \phi_i)}-K^\mu\tag{13}\end{align*}

が流れの保存

\begin{align*}\partial_\mu N^\mu=0\tag{1}\end{align*}

を満たすことが分かる。

 以上より、連続的な無限小変換によって作用積分\(S\)が変わらない、つまり、自然法則が変わらないとき、ネーターカレント\(N^\mu\)が流れの保存を満たすことが分かる。

保存量\(Q\)の導出

 次に、「ネーターカレント\(N^\mu\)の保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で場\(\phi\)がゼロに収束すること」を満たせば、\(N^0\)の全空間積分である物理量\(Q\)

\begin{align*}Q=\int d^3\boldsymbol x\ N^0\tag{2}\end{align*}

は保存する(つまり、どの時刻においても\(N^0\)の全空間積分は一定となる)ことを確認してみる。このことは、次のように物理量\(Q\)を時間微分したときにゼロになることを確かめればよい(ここで、\(d^3\boldsymbol x=dxdydz\)としている)。

\begin{align*}\frac{d}{dt}Q&=\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ N^0\\&=0\tag{3}\end{align*}

 まず、確認すべき式(3)の左辺を変形してネーターカレントが従う関係式(1)を用いると

\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ N^0&=\int d^3\boldsymbol x\ \frac{\partial}{\partial t}N^0\\&=\int d^3\boldsymbol x\ \partial _0N^0\\&=-\int d^3\boldsymbol x\ \partial_j N^j\tag{14}\end{align*}

となり(\(j=1,2,3\))、ガウスの発散定理

\begin{align*}\int d^3\boldsymbol x\ \partial_j X^j=\int_\sigma d\sigma_j\ X^j\tag{15}\end{align*}

を用いると

\begin{align*}\frac{d}{dt}Q=-\int_\sigma d\sigma_j\ N^j\tag{16}\end{align*}

と表すことができる。最後に、「どの時刻においても、空間の無限遠で場\(\phi\)がゼロに収束すること」を用いると、空間の無限遠では常にネーターカレント\(N^j\)

\begin{align*}N^j=\sum_{i=1}^n\delta_Q \phi_i\frac{\partial \mathscr L}{\partial (\partial _i \phi_i)}-K^j\tag{17}\end{align*}

はゼロになるはずであり、式(16)の右辺において無限遠で面積分を行なえばゼロとなり式(3)が成り立つことが分かる。

\begin{align*}\frac{d}{dt}Q=0\tag{3}\end{align*}

することがわかる。

 以上より、ネーターカレント\(N^0\)を空間積分した物理量\(Q\)は保存量であることが分かる。これを場の理論におけるネーターの定理という。

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