HOME > 量子情報理論 > 量子測定 > 純粋状態と混合状態
【前ページ】 【次ページ】
本ページでは…
本ページでは、純粋状態は系について可能な限りの情報が既に得られている状態であり、混合状態は系に対する情報が不足していて、ある純粋状態が測定される確率しか分からない状態であることをみる。また、純粋状態と混合状態の違いを、光子の偏光を用いた例で確かめる。
内容
純粋状態とは
純粋状態とは、扱う系について可能な限りの情報が既に得られている場合の状態であり、状態ベクトル\(\vert\varPsi_j\rangle\)によって表現されて、このときの確率振幅は波動関数
で表される。
純粋状態\(\vert\varPsi_j\rangle\)が規格化条件
を見たすとき、純粋状態\(\vert\varPsi_j\rangle\)に位相因子\(e^{i\theta}\)を掛けたもの
も規格化条件を満たすため、\(\vert\varPsi_j\rangle\)と\(e^{i\theta}\vert\varPsi_j\rangle\)は同じ純粋状態を表す。
純粋状態\(\vert\varPsi_j\rangle\)と純粋状態\(\vert\varPhi_j\rangle\)を重ね合わせた状態
も純粋状態である。ただし、\(\vert\varPsi_j\rangle\)と\(e^{i\theta}\vert\varPsi_j\rangle\)が同じ純粋状態だからといって、それらに\(\vert\varPhi_j\rangle\)を足したふたつの状態\(\vert\varPsi_j\rangle+\vert\varPsi_j\rangle\)と\(e^{i\theta}\vert\varPhi_j\rangle+\vert\varPhi_j\rangle\)は同じ純粋状態ではない。
純粋状態の例
純粋状態の例として、円偏光の光子を取り上げる。光子には右円偏光と左円偏光があるが、それぞれ純粋状態であり、\(\vert R\rangle\)と\(\vert L \rangle\)で表す。
純粋状態の重ね合わせも純粋状態になるため、例えば右円偏光と左円偏光を\(1/2\)ずつ重ね合わせた縦偏光の状態
も純粋状態であり、縦偏光板\(\updownarrow\)を透過した光子がこの状態にあたる。この状態の光子を右円偏光板\(\nearrow\)または左円偏光板\(\nwarrow\)に通すと、50%の確率で透過し、50%の確率で吸収される。また、この状態の光子は縦偏光板\(\updownarrow\)を100%透過するが、横偏光板\(\leftrightarrow\)は全く透過しない。
混合状態とは
扱う系について、可能な限りの情報が既に得られている場合は純粋状態で扱えたが、全ての状態が得られている状況は通常ほとんどない。系に対する情報が不足していて、ある純粋状態\(\vert\varPsi_j\rangle\)が測定される確率\(p_j\)しか分からない状態を混合状態という。
混合状態の例1
系に対する情報が不足しているときの混合状態の例として、無偏光の光子を取り上げる。
無偏光の光子は白熱電球から得ることができ、もし、白熱電球で無偏光の光子が出るメカニズムが詳細に分かり、そのメカニズムにおける純粋状態が全て調べられるのなら、今回の例も純粋状態で表すことができる。しかし、そのようなことは不可能である。系に対する情報が不足している今回、右円偏光板\(\nearrow\)および左円偏光板\(\nwarrow\)で無偏光の光子の測定を行ない、それらの純粋状態\(\vert R\rangle\),\(\vert L\rangle\)と得られた確率から混合状態を表すしかない。
無偏光の光子は偏光方向が粒子毎に完全にランダムである。そのため、複数の無偏光の光子を右円偏光板\(\nearrow\)または左円偏光板\(\nwarrow\)に通すと、50%の確率で透過し、50%の確率で吸収される。この結果は、先程の純粋状態の例と同じ結果であるため、右円偏光および左円偏光の純粋状態を用いて、今回の混合状態を
と表したくなる。しかし、複数の無偏光の光子を縦偏光板\(\updownarrow\)または横偏光板\(\leftrightarrow\)に通すと、偏光方向が完全にランダムであるため、50%は透過するが、50%は透過せず、先程の純粋状態の例とは異なる結果となる。このように、混合状態では純粋状態の重ね合わせでは表すことはできない。
混合状態の例2
もうひとつの混合状態の例として、カスケード放出による二光子の生成を取り上げる。
カスケード放出とは、励起状態の電子が角運動量を変えながら2段階で基底状態に遷移する際に、光子が2つ放出される現象である。2つの光子が同じ方向に放出されたとき、電子と光子の合計角運動量を保存するために、どちらか一方の光子は右円偏光となり、もう一方の光子は左円偏光となる。
ここで、カスケード放出された複数の光子を右円偏光板\(\nwarrow\)または左円偏光板\(\nwarrow\)に通すと、50%の確率で透過し、50%の確率で吸収される。この結果は、先程の純粋状態の例と同じ結果であるため、右円偏光および左円偏光の純粋状態を用いて、今回の混合状態を
と表したくなる。しかし、カスケード放出された複数の光子を縦偏光板\(\updownarrow\)または横偏光板\(\leftrightarrow\)に通すと、50%は透過するが、50%は透過せず、先程の純粋状態の例とは異なる結果となる。このように、今回の混合状態も純粋状態の重ね合わせでは表すことはできない。
次ページから…
次ページでは、純粋状態および混合状態を表現できる密度行列
を導入し、純粋状態の密度行列と混合状態の密度行列の違いを、光子の偏光を用いた例で確かめる。
【前ページ】 【次ページ】