スカラー場の次元解析

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本ページでは…

 本ページでは、クライン-ゴルドン方程式の知識を使わず、クライン-ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度をスカラー場の次元解析から求める。

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前ページでは、自然単位系においてスカラー場\(\phi\)と微分演算子\(\partial_\mu\)の質量次元は\(1\)であることを確認した。

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内容

スカラー場の次元解析

 相互作用項を持つクライン-ゴルドン方程式

\begin{align}\partial_\mu\partial^\mu\phi+m^2\phi+\frac{\lambda}{3!}\phi^3=0\tag{1}\end{align}

から求めたスカラー場のラグランジアン密度\(\mathscr L\)

\begin{align}\mathscr{L}=\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi-\frac{m^2}{2}\phi^2-\frac{\lambda}{4!}\phi^4\tag{2}\end{align}

は、相対論的不変性と\(Z_2\)不変性を持っていた(以前のページを参照)。そのため、もし、クライン-ゴルドン方程式を知らなくても、相対論的不変性と\(Z_2\)不変性を持つラグランジアン密度さえ求められれば、それがクライン-ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度\(\mathscr L\)となる。本ページでは、クライン-ゴルドン方程式の知識を使わず、クライン-ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度をスカラー場の次元解析から求めてみる。

相対論的不変性

 相対論的不変性を持つ有次元量としては、スカラーである「スカラー場\(\phi\)」や「ダランベルシアン\(\partial_\mu\partial^\mu\)」が存在する。そのため、相対論的不変性を持つラグランジアン密度はこれらから構成されると予想され、例として質量次元が\(4\)までの組み合わせのみ具体的な形を記す。

\begin{align}&\phi\\&\phi^2\\\phi^3,\ &\partial_\mu\partial^\mu\phi\\\phi^4,\ \partial_\mu\phi\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu(\phi\partial^\mu&\phi),\ \phi\partial_\mu\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu\partial^\mu(\phi^2)\\&\vdots\end{align}

\(Z_2\)不変性

 \(Z_2\)不変性は\(\phi\rightarrow-\phi\)の下での不変性であるため、\(Z_2\)不変性を持つ項はスカラー場\(\phi\)の数が偶数個であることが分かる。そのため、許される組み合わせは次の通りになり、例として質量次元が\(4\)までの組み合わせのみ具体的な形を記す。

\begin{align}&\phi^2\\\phi^4,\ \partial_\mu\phi\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu(\phi\partial^\mu&\phi),\ \phi\partial_\mu\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu\partial^\mu(\phi^2)\\&\vdots\end{align}

くりこみ理論

 相対論的不変性と\(Z_2\)不変性を考慮しても、これらの不変性を満たすスカラー場\(\phi\)と微分演算子\(\partial_\mu\)の組み合わせは無数にある。しかし、後のページでわかるが、くりこみ理論によると、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)の中で重要な項は「場と微分演算子\(\partial_\mu\)の質量次元が\(4\)以下の項」だけであり、それ以外の項の影響は無視できる。そのため、相対論的不変性と\(Z_2\)不変性をもつスカラー場\(\phi\)と微分演算子\(\partial_\mu\)の組み合わせのうち、重要な組み合わせは次の6つだけである。

\begin{align}&\phi^2\\\phi^4,\ \partial_\mu\phi\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu(\phi\partial^\mu&\phi),\ \phi\partial_\mu\partial^\mu\phi,\ \partial_\mu\partial^\mu(\phi^2)\end{align}

作用積分の不定性

 作用積分の不定性(以前のページを参照)によって全微分項の作用積分はゼロとなり、運動方程式に関与しない。そのため、以前のページの例で確認したように、全微分項である\(\partial_\mu(\phi\partial^\mu\phi)\)や\(\partial_\mu\partial^\mu(\phi^2)\)は無視することができる。また、\(\phi\partial_\mu\partial^\mu\phi\)は全微分項を無視するとは符号は逆だが\(\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\)と同じであった。

 以上より、相対論的不変性および\(Z_2\)不変性を持つ項として重要なものは次の3つだけ

\begin{align*}&\phi^2\\\phi^4,\ \partial_\mu&\phi\partial^\mu\phi\end{align*}

であることが分かり、これらはクライン-ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度\(\mathscr L\)

\begin{align}\mathscr{L}=\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi-\frac{m^2}{2}\phi^2-\frac{\lambda}{4!}\phi^4\tag{2}\end{align}

に存在する項と一致する。

ラグランジアン密度の決定

 後は各項のパラメーターと符号を決定すれば、クライン-ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度\(\mathscr L\)が求められる。

 まず、パラメーターに関して、ラグランジアン密度の質量次元は\(4\)であるため、\(\phi^2\)の項には\(m^2\)をつける必要があるが、それ以外のパラメーターには任意性がある。そのため、次のようにパラメーターを付けておく。

\begin{align*}&\frac{m^2}{2}\phi^2\\\frac{\lambda}{4!}\phi^4,&\frac{1}{2}\ \partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\end{align*}

もし、別のパラメーターを付けてしまったとしても、クライン-ゴルドン方程式になるように後から質量\(m\)や結合定数\(\lambda\)を定義し直せばよい。

 パラメーターには任意性があったが、エネルギーが下限値を持つように運動項やポテンシャル項の関数形が下に凸でなければならないこと(以前のページを参照)を考えると符号は一意的に決まる。

 まず、運動項は\(\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\)から構成されるが、関数形が下に凸になるためには\(\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\)の符号は正でなければならない。

 また、\(\frac{m^2}{2}\phi^2\)と\(\frac{\lambda}{4!}\phi^4\)からはポテンシャル項\(V\)が構成されるが、関数形が下に凸になるためには最高次である\(\frac{\lambda}{4!}\phi^4\)の符号は正でなければならない。一方、最高次ではない\(\frac{m^2}{2}\phi^2\)の符号がどちらでもポテンシャル項\(V\)の関数形は下に凸になるため、\(\frac{m^2}{2}\phi^2\)の符号は正でも負でもよい。

 以上より、ポテンシャル項\(V\)は

\begin{align*}V=\pm\frac{m^2}{2}\phi^2+\frac{\lambda}{4!}\phi^4\tag{3}\end{align*}

となって、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)は

\begin{align*}\mathscr L&=\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi-V\\&=\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi\pm\frac{m^2}{2}\phi^2-\frac{\lambda}{4!}\phi^4\tag{4}\end{align*}

となる。第2項の符号が負であるラグランジアン密度\(\mathscr L\)

\begin{align}\mathscr L&=\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi-\frac{m^2}{2}\phi^2-\frac{\lambda}{4!}\phi^4\tag{2}\end{align}

はまさにクライン-ゴルドン方程式を導くラグランジアン密度\(\mathscr L\)となる。

 このラグランジアン密度\(\mathscr L\)を導くためには、クライン-ゴルドン方程式の知識は全く使用せず、相対論的不変性と\(Z_2\)不変性のみを考慮していたため、クライン-ゴルドン方程式は相対論的不変性および\(Z_2\)不変性からの必然的な帰結である

自発的対称性の破れ

 式(4)において、第2項の符号が正であるラグランジアン密度がクライン-ゴルドン方程式を導くものであった。では、第2項の符号が正であるラグランジアン密度\(\mathscr L\)

\begin{align*}\mathscr L&=\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi+\frac{m^2}{2}\phi^2-\frac{\lambda}{4!}\phi^4\tag{4}\end{align*}

はどのようなものだろうか。このラグランジアン密度\(\mathscr L\)をオイラー-ラグランジュ方程式(以前のページを参照)

\begin{align}\partial_\mu\left(\frac{\partial \mathscr{L}}{\partial \partial_\mu\phi}\right)-\frac{\partial \mathscr{L}}{\partial\phi}=0\tag{5}\end{align}

に代入すると

\begin{align}\partial_\mu\partial^\mu\phi-m^2\phi+\frac{\lambda}{3!}\phi^3=0\tag{6}\end{align}

となり、クライン-ゴルドン方程式(1)

\begin{align}\partial_\mu\partial^\mu\phi+m^2\phi+\frac{\lambda}{3!}\phi^3=0\tag{1}\end{align}

と比較すると質量の2乗\(m^2\)の項の符号が負となっている。つまり、式(6)に従う粒子の質量は虚数であり、そのような粒子をタキオンと呼ぶ。

 虚数の質量を持つタキオンが実際に存在する実験的証拠は無いため、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)の式(4)を考えても無意味と思うかもしれない。しかし、スカラー場\(\phi\)とは別のスカラー場\(\varphi\)

\begin{align*}\phi=\varphi+\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m\tag{7}\end{align*}

を定義し、ラグランジアン密度\(\mathscr L\)の式(4)に代入すると新たな発見がある。実際に代入してみると

\begin{align}\mathscr L&=\frac{1}{2}\partial_\mu\varphi\partial^\mu\varphi-\frac{m^2}{2}\varphi^2-\sqrt{\frac{\lambda}{6}}m\varphi^3-\frac{\lambda}{4!}\varphi^4+\frac{3}{2\lambda}m^4\tag{8}\end{align}

\begin{align}\mathscr L&=\frac{1}{2}\partial_\mu\phi\partial^\mu\phi+\frac{m^2}{2}\phi^2-\frac{\lambda}{4!}\phi^4\\&=\frac{1}{2}\partial_\mu\left(\varphi+\sqrt{\frac{6m}{\lambda}}m\right)\partial^\mu\left(\varphi+\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m\right)+\frac{m^2}{2}\left(\varphi+\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m\right)^2-\frac{\lambda}{4!}\left(\varphi+\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m\right)^4\\&=\frac{1}{2}\partial_\mu\varphi\partial^\mu\varphi+\frac{m^2}{2}\left(\varphi^2+2\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m\varphi+\frac{6}{\lambda}m^2\right)-\frac{\lambda}{4!}\left(\varphi^4+4\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m\varphi^3+\frac{36}{\lambda}m^2\varphi^2+\frac{24}{\lambda}\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m^3\varphi+\frac{36}{\lambda^2}m^4\right)\\&=\frac{1}{2}\partial_\mu\varphi\partial^\mu\varphi+\frac{m^2}{2}\varphi^2+\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m^3\varphi+\frac{3}{\lambda}m^4-\frac{\lambda}{4!}\varphi^4-\frac{\lambda}{3!}\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m\varphi^3-\frac{3}{2}m^2\varphi^2-\sqrt{\frac{6}{\lambda}}m^3\varphi-\frac{3}{2\lambda}m^4\\&=\frac{1}{2}\partial_\mu\varphi\partial^\mu\varphi-\frac{m^2}{2}\varphi^2-\sqrt{\frac{\lambda}{6}}m\varphi^3-\frac{\lambda}{4!}\varphi^4+\frac{3}{2\lambda}m^4\end{align}

となり、オイラー-ラグランジュ方程式に代入すると次の式が得られる。

\begin{align}\partial_\mu\partial^\mu\varphi+m^2\varphi+\sqrt{\frac{3\lambda}{2}}m\varphi^2+\frac{\lambda}{3!}\varphi^3=0\tag{9}\end{align}

この方程式(9)において、質量の2乗\(m^2\)の項の符号がは正となっていることからスカラー場\(\phi\)で表した方程式はタキオンが従う方程式だが、スカラー場\(\varphi\)で表すと実在粒子が従う方程式になることが分かる。ただし、1点大きく変わっている点があり、スカラー場\(\varphi\)で表したラグランジアン密度\(\mathscr L\)には\(\varphi^3\)が存在しており\(Z_2\)不変性(対称性)が破れている。この現象は自発的対称性の破れであり、後のページで詳細を確認する。


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