量子力学における測定

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 本ページでは、測定(または観測)とは、測定対象の粒子Aと異なる粒子Bを相互作用させて、粒子Aの重ね合わせの状態を壊し、粒子Aにおいて一つの固有値を得る行為であり、意識とは関係ないことを見る。

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内容

測定とは

 量子力学において測定とはほとんどの場合間接測定である。

前ページの復習になるが、間接測定は次の4ステップからなる。

①測定対象粒子\(\varPhi\)の純粋状態\(\vert\varPhi\rangle\)と装置\(\varPsi\)の純粋状態\(\vert\varPsi\rangle\)から合成系

\begin{align*}\vert\varPsi,\varPhi\rangle=\vert\varPsi\rangle\otimes\vert\varPhi\rangle\end{align*}

が作られる。

②合成系はユニタリ演算子\(\hat{\boldsymbol U}\)で表される相互作用によって、量子もつれの状態

\begin{align*}\vert\varPsi’,\varPhi’\rangle=\hat{\boldsymbol U}\vert\varPsi,\varPhi\rangle=\hat{\boldsymbol U}(\vert\varPsi\rangle\otimes\vert\varPhi\rangle)\end{align*}

となる。

③部分系である装置\(\varPsi\)に注目する。これは部分トレースをとる操作に相当し、部分系である装置\(\varPsi\)は混合状態になっている。

④部分系である装置\(\varPsi\)に対して射影測定を行なう。このとき、部分系は混合状態であり、古典的な確率分布で測定値が得られる。

 間接測定において、もし、測定対象の粒子\(\varPhi\)と装置\(\varPsi\)が作る合成系に射影測定すると重ね合わせを含む純粋状態として測定できるが、通常は合成系を構成する粒子は多数に及ぶため合成系全体に射影測定することは難しく、部分系に射影測定するしかない。

測定の例

前ページでは間接測定の例としてミクロな現象を取り上げたが、本ページではマクロな現象を取り上げる。

例1

 1つ目の例として、光子をスクリーンに投影して位置測定を行なっていた二重スリットの実験を取り上げる。実験ではスクリーンに光電子倍増管が用いられており、アルカリ金属などから構成される光電面\(\varPsi\)と光子\(\varPhi\)との相互作用を用いて位置測定をしていた。詳細には、次のようになる。

①まず、光子\(\varPhi\)と光電面を構成するアルカリ金属原子\(\varPsi\)とが合成系

\begin{align*}\vert\varPsi,\varPhi\rangle=\vert\varPsi\rangle\otimes\vert\varPhi\rangle\end{align*}

をつくる。

②アルカリ金属原子\(\varPsi\)に光子\(\varPhi\)が吸収されて励起された電子が放出される光電効果の過程で、光子\(\varPhi\)とアルカリ金属原子\(\varPsi\)とが、ユニタリ演算子\(\hat{\boldsymbol U}\)で表される相互作用をして、量子もつれの状態となる。

\begin{align*}\vert\varPsi’,\varPhi’\rangle=\hat{\boldsymbol U}\vert\varPsi,\varPhi\rangle=\hat{\boldsymbol U}(\vert\varPsi\rangle\otimes\vert\varPhi\rangle)\end{align*}

③合成系\(\vert\varPsi’,\varPhi’\rangle\)は純粋状態であるが、アルカリ金属原子の部分系\(\varPsi\)に注目すると混合状態になっている。アルカリ金属原子\(\varPsi\)は、アルカリ金属原子同士はもちろん、環境や装置に存在する他の粒子とも量子もつれの状態となっているため、アルカリ金属原子\(\varPsi\)の混合状態は緩和によって急速に量子デコヒーレンスし、アルカリ金属原子\(\varPsi\)の部分系に注目すれば、どこのアルカリ金属原子で光電効果が起こるかについては古典的な確率分布に完全に移行している(再度注意だが、合成系は純粋状態のままであり、合成系に注目すれば、どこのアルカリ金属原子で光電効果が起こるかは重ね合わせで表現されている)。

④放出された電子が光電子倍増管の回路を流れるが、光電子倍増管の光電面に光子\(\varPhi\)を当てて光電効果によって電子が流れるように装置を組み立てていることが部分系の装置\(\varPsi\)への射影測定に該当し、どの光電子倍増管の回路を電子が流れるかは古典的な確率分布に従う。そして、流れた回路から光子\(\varPhi\)がどの位置に存在したかを推測する。

 以上が、光子の位置測定において、量子力学の特徴である重ね合わせの現象が古典的な確率分布となる過程である。何度も注意しているが、合成系全体で見れば重ね合わせの状態は維持しているが、部分系に注目すると混合状態になっており、部分系に射影測定をすると古典的な確率分布となる。別の見方をすると、今回のような光電子倍増管を設置して光子の位置を特定しようとする行為は「部分系への注目」である。一方、この実験で重ね合わせの状態を測定できる装置を設置したのならば、「部分系への注目」ではなく「合成系への注目」であり、重ね合わせの状態を測定することができる(ただ、先程も述べたように、合成系全体を測定することは普通は困難である)。つまり、「部分系への注目」は「部分系への射影測定」と同義である。

例2

 例1に似た例として、ヤングの実験を取り上げる。ヤングの実験ではスクリーンに感光板が用いられており、ハロゲン化銀から構成される感光板\(\varPhi\)と光子\(\varPsi\)との相互作用を用いて位置測定をしていた。詳細には、次のようになる。

①まず、光子\(\varPhi\)と感光板を構成するハロゲン化銀\(\varPsi\)とが合成系

\begin{align*}\vert\varPsi,\varPhi\rangle=\vert\varPsi\rangle\otimes\vert\varPhi\rangle\end{align*}

をつくる。

②ハロゲン化銀\(\varPsi\)に光子\(\varPhi\)が吸収されて励起された電子がハロゲン化銀結晶にある感光核(格子欠陥やドープ原子)に捕捉され、そこでハロゲン化物イオンから銀イオンへ電子が流れて銀原子とハロゲン原子が生じる。この光反応の過程で、光子\(\varPhi\)とハロゲン化銀\(\varPsi\)とが、ユニタリ演算子\(\hat{\boldsymbol U}\)で表される相互作用をして、量子もつれの状態となる。

\begin{align*}\vert\varPsi’,\varPhi’\rangle=\hat{\boldsymbol U}\vert\varPsi,\varPhi\rangle=\hat{\boldsymbol U}(\vert\varPsi\rangle\otimes\vert\varPhi\rangle)\end{align*}

2AgX→2Ag+X2

③合成系\(\vert\varPsi’,\varPhi’\rangle\)は純粋状態であるが、ハロゲン化銀の部分系\(\varPsi\)に注目すると混合状態になっている。ハロゲン化銀\(\varPsi\)は、ハロゲン化銀同士はもちろん、環境や装置に存在する他の粒子とも量子もつれの状態となっているため、ハロゲン化銀\(\varPsi\)の混合状態は緩和によって急速に量子デコヒーレンスし、ハロゲン化銀\(\varPsi\)の部分系に注目すれば、どこのハロゲン化銀で光反応が起こるかについては古典的な確率分布に完全に移行している(再度注意だが、合成系は純粋状態のままであり、合成系に注目すれば、どこのハロゲン化銀で光反応が起こるかは重ね合わせで表現されている)。

④光反応で生じた銀原子が結晶をつくり析出するが、感光板に光子\(\varPhi\)を当てて光反応によって銀結晶が析出するように装置を組み立てていることが部分系の装置\(\varPsi\)への射影測定に該当し、どの位置で銀結晶が析出するかは古典的な確率分布に従う。そして、析出した位置から光子\(\varPhi\)がどの位置に存在したかを推測する。

 例1と同様にこの例も、光子の位置測定において、量子力学の特徴である重ね合わせの現象が古典的な確率分布となる過程である。重要なことなので以下のことを再度述べる。合成系全体で見れば重ね合わせの状態は維持しているが、部分系に注目すると混合状態になっており、部分系に射影測定をすると古典的な確率分布となる。別の見方をすると、今回のような感光板を設置して光子の位置を特定しようとする行為は「部分系への注目」である。一方、この実験で重ね合わせの状態を測定できる装置を設置したのならば、「部分系への注目」ではなく「合成系への注目」であり、重ね合わせの状態を測定することができる(ただ、先程も述べたように、合成系全体を測定することは普通は困難である)。つまり、「部分系への注目」は「部分系への射影測定」と同義である。

測定とならない例

 測定対象の粒子\(\varPhi\)を装置\(\varPsi\)と相互作用させて量子もつれの状態にし、部分系である装置\(\varPsi\)に注目すると測定行為になったが、もし部分系に注目しなければ測定行為に当たらない。「部分系への注目」と「部分系への射影測定」は同義であるため、言い換えると、部分系に射影測定を行わなければ測定行為に当たらない。

 その例としては、光子の鏡面反射があり、光子が鏡面で反射する際に、鏡面を構成する金属と光子は相互作用するが測定にはならない。詳細には、次のようになる。

①まず、鏡面Bに光子Aが相互作用すると、複数の鏡面金属bと光子Aが量子もつれを起こし、合成系をつくる。

②合成系は純粋状態であるが、鏡面金属bの部分系に注目すると混合状態になっている。

③鏡面金属bは、鏡面金属原子同士はもちろん、環境や装置に存在する他の粒子とも量子もつれの状態となっているため、鏡面金属bの混合状態は緩和によって急速に量子デコヒーレンスし、部分系に注目すれば、どこの鏡面金属原子b’で反射が起こるかについては古典的な確率分布に完全に移行している(再度注意だが、合成系は純粋状態のままである)。

④鏡面Bに光子Aが衝突し、光子はある鏡面金属原子b’に吸収され、再度光子を放出する。このとき、複数箇所で反射してもエネルギー保存則どこか1箇所で光反応が起こらなければならないため、光反応はハロゲン化銀bの部分系に注目する行為に相当する。

⑤古典的な確率分布に従って、あるハロゲン化銀b’ででハロゲン化物イオンから銀イオンへの電子の移動が起こり、銀原子とハロゲン原子が生じ、生じた黒色の銀原子を観察して光子の位置測定を行なう。

 その例としては、光子の鏡面反射がある。光子が鏡面で反射する際に、鏡面を構成する金属と光子は相互作用する。しかし、反射は光子の弾性衝突であり、鏡面を構成する金属のエネルギー変化はなく、また、可視光の光子一つが持つエネルギーは小さい。そのため、鏡面を構成する金属と光子が相互作用して反射しても、相互作用は鏡面金属の熱運動と比べると小さく、鏡面を構成する金属の状態はほとんど変わらず、鏡面反射は測定行為にはならない。

測定に意識は関係あるか

 量子力学において、測定と意識は関係がない。もし、測定しようとする意識がなくても測定したい粒子が別の粒子と相互作用したらそれは「測定行為」であり、もし測定しようとする意識があっても粒子と相互作用できなければ「 測定行為」ではない。

 また、このことから、測定器が非生物の機械であろうが、起きている人・寝ている人・酔っ払っている人であろうが、人以外の動物であろうが、粒子が相互作用できるのなら 「測定行為」に該当し、粒子が相互作用できないのなら「測定行為」には該当しない。


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