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本ページでは、クライン-ゴルドン方程式における確率密度\(\rho\)
が負の値もとり、シュレーディンガー方程式で行なえた確率解釈がクライン-ゴルドン方程式では困難であることを確認する。また、クラインゴルドン方程式において、エネルギー\(E\)が負の値をとるとき、確率密度\(\rho\)が負の値になることも確認する。
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前ページでは、4元確率流密度\(j^\mu\)を用いたクライン-ゴルドン方程式における流れの保存の関係式
を確認し、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\phi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことを確認した。
内容
シュレーディンガー方程式における確率解釈
シュレーディンガー方程式において、次のように\(\rho\)と\(\boldsymbol j\)
を定義すると流れの保存の関係式
を満たした。そして、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\varPsi\)がゼロに収束すること」を満たせば、\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても\(\rho\)の全空間積分は一定となる)こと
が保証された。このことより、\(\rho\)を確率密度として解釈することができ、確率密度\(\rho\)に微小体積\(d^3\boldsymbol x\)を掛けた\(d^3\boldsymbol x\ \rho\)を「微小体積\(d^3\boldsymbol x\)に粒子が見出される確率」として解釈する確率解釈が成り立つ。
クライン-ゴルドン方程式における確率解釈
クライン-ゴルドン方程式において、シュレーディンガー方程式のときと同様に\(\rho=\phi\phi^*\)を確率密度として解釈することはできない。なぜなら、\(\rho=\phi\phi^*\)を確率密度として解釈するためには
が成り立たなければならないが、式(4)が成り立つことを保証する流れの保存の関係式
の\(\rho\)と\(\boldsymbol j\)はクライン-ゴルドン方程式において
であり、\(\rho=\phi\phi^*\)ではないからである(前ページ参照)。
では、式(5)の\(\rho\)を確率密度とすればクライン-ゴルドン方程式でも確率解釈ができるかと言うと、今度は別の問題が浮上する。それは、シュレーディンガー方程式における確率密度\(\rho=\varPsi\varPsi^*\)は非負の値であったが、クライン-ゴルドン方程式における式(5)の\(\rho\)は負の値にもなりうることである。値が負にもなるような変数\(\rho\)を確率密度として解釈する事はできず、クライン-ゴルドン方程式において確率解釈を行なうことはできない。
\(\rho\)が負の値をとる例
実際に\(\rho\)が負の値をとることを確認する。アインシュタインの関係式
より、エネルギー\(E\)は正のエネルギー解と負のエネルギー解
が考えられ、クライン-ゴルドン方程式
の一般解は
であるから(規格化定数は無視している)、\(\rho\)は
となる。つまり、エネルギー\(E\)が正のエネルギー解\(+\sqrt{m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2}\)のとき\(\rho\)は正の値になるが、エネルギー\(E\)が負のエネルギー解\(-\sqrt{m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2}\)のとき\(\rho\)は負の値になることがわかる。
\(\rho\)の形が異なる理由
そもそも、なぜ、クライン-ゴルドン方程式における確率密度\(\rho\)はシュレーディンガー方程式における確率密度\(\rho=\varPsi\varPsi^*\)と異なっていたのだろうか。
その原因は、シュレーディンガー方程式
は時間に関して1階微分だが、クライン-ゴルドン方程式
は時間に関して2階微分だからである。流れの保存の導入過程(次のページ参照①,②)を見れば分かるが、方程式が1階の時間微分なら確率密度\(\rho\)に時間微分は含まれない一方、方程式が2階の時間微分なら確率密度\(\rho\)に時間微分が含まれてしまう。
時間微分とは対照的に空間微分はどちらの方程式においても2階微分のため、確率流密度\(\boldsymbol j\)
は同じ形になっており、1階の空間微分を含んでいる。
クライン-ゴルドン方程式に2階の時間微分が含まれているのは、元となったアインシュタインの関係式
がエネルギー\(E\)の二次式であり、正準量子化の際にエネルギー演算子の関係
を用いたからである。
クライン-ゴルドン方程式において、時間に関して1階微分にすることができれば良いが、相対性理論の要請より時間と空間は対等に扱わなければならず、空間に関して2階微分なら、時間に関しても2階微分でなければならない。ただし、時間と空間どちらに関しても1階微分であれば、時間と空間を対等に扱いつつ、確率密度\(\rho\)を非負の値に保つことができるのでは?と思われる。実際に、これがディラック方程式が導かれたときの着眼点であり、このことは後のページで確認する。
次ページから…
次ページでは、シュレーディンガー方程式には現れなかった負のエネルギー解がクライン-ゴルドン方程式に現れたのは、元となったアインシュタインの関係式
がエネルギー\(E\)の二次式だからであることを確認する。
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