スポンサーリンク

確率解釈の問題点

HOME相対論的量子力学クライン-ゴルドン方程式確率解釈の問題点

前ページ】           【次ページ


スポンサーリンク

本ページでは…

 本ページでは、クライン-ゴルドン方程式における確率密度\(\rho\)

\begin{align*}\rho&=\frac{i\hbar}{2mc^2}\left(\phi^*\frac{\partial \phi}{\partial t}-\frac{\partial \phi^*}{\partial t}\phi\right)\end{align*}

が負の値もとり、シュレーディンガー方程式で行なえた確率解釈がクライン-ゴルドン方程式では困難であることを確認する。また、クラインゴルドン方程式において、エネルギー\(E\)が負の値をとるとき、確率密度\(\rho\)が負の値になることも確認する。

スポンサーリンク

前ページまで⋯

前ページでは、4元確率流密度\(j^\mu\)を用いたクライン-ゴルドン方程式における流れの保存の関係式

\begin{align*}\partial_\mu j^\mu=0\end{align*}

を確認し、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\phi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことを確認した。

スポンサーリンク

内容

シュレーディンガー方程式における確率解釈

 シュレーディンガー方程式において、次のように\(\rho\)と\(\boldsymbol j\)

\begin{align*}\rho&=\varPsi\varPsi^*\tag{1}\\\boldsymbol j&=-\frac{i\hbar}{2m}(\varPsi^*\nabla\varPsi-(\nabla\varPsi^*)\varPsi)\tag{2}\end{align*}

を定義すると流れの保存の関係式

\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}\rho+\nabla\cdot \boldsymbol j=0\tag{3}\end{align*}

を満たした。そして、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\varPsi\)がゼロに収束すること」を満たせば、\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても\(\rho\)の全空間積分は一定となる)こと

\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=0\tag{4}\end{align*}

が保証された。このことより、\(\rho\)を確率密度として解釈することができ、確率密度\(\rho\)に微小体積\(d^3\boldsymbol x\)を掛けた\(d^3\boldsymbol x\ \rho\)を「微小体積\(d^3\boldsymbol x\)に粒子が見出される確率」として解釈する確率解釈が成り立つ。

クライン-ゴルドン方程式における確率解釈

 クライン-ゴルドン方程式において、シュレーディンガー方程式のときと同様に\(\rho=\phi\phi^*\)を確率密度として解釈することはできない。なぜなら、\(\rho=\phi\phi^*\)を確率密度として解釈するためには

\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=0\tag{4}\end{align*}

が成り立たなければならないが、式(4)が成り立つことを保証する流れの保存の関係式

\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}\rho+\nabla\cdot \boldsymbol j=0\tag{3}\end{align*}

の\(\rho\)と\(\boldsymbol j\)はクライン-ゴルドン方程式において

\begin{align*}\rho&=\frac{i\hbar}{2mc^2}\left(\phi^*\frac{\partial \phi}{\partial t}-\frac{\partial \phi^*}{\partial t}\phi\right)\tag{5}\\\boldsymbol j&=-\frac{i\hbar}{2m}(\phi^*\nabla\phi-(\nabla\phi^*)\phi)\tag{6}\end{align*}

であり、\(\rho=\phi\phi^*\)ではないからである(前ページ参照)。

 では、式(5)の\(\rho\)を確率密度とすればクライン-ゴルドン方程式でも確率解釈ができるかと言うと、今度は別の問題が浮上する。それは、シュレーディンガー方程式における確率密度\(\rho=\varPsi\varPsi^*\)は非負の値であったが、クライン-ゴルドン方程式における式(5)の\(\rho\)は負の値にもなりうることである。値が負にもなるような変数\(\rho\)を確率密度として解釈する事はできず、クライン-ゴルドン方程式において確率解釈を行なうことはできない。

\(\rho\)が負の値をとる例

 実際に\(\rho\)が負の値をとることを確認する。アインシュタインの関係式

\begin{align*}E^2&=m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2\end{align*}

より、エネルギー\(E\)は正のエネルギー解と負のエネルギー解

\begin{align*}E&=\pm \sqrt{m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2}\tag{7}\end{align*}

が考えられ、クライン-ゴルドン方程式

\begin{align*}\left\{\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}-\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right)+\frac{m^2c^2}{\hbar^2}\right\}\phi=0\tag{8}\end{align*}

の一般解は

\begin{align*}\phi&=e^{-\frac{i}{\hbar}(Et-\boldsymbol p\cdot\boldsymbol x)}\tag{9}\end{align*}

であるから(規格化定数は無視している)、\(\rho\)は

\begin{align*}\rho&=\frac{i\hbar}{2mc^2}\left(\phi^*\frac{\partial \phi}{\partial t}-\frac{\partial \phi^*}{\partial t}\phi\right)\\&=\frac{i\hbar}{2mc^2}\left(-\frac{iE}{\hbar}-E\frac{iE}{\hbar}\right)\\&=\frac{E}{mc^2}\tag{10}\end{align*}

となる。つまり、エネルギー\(E\)が正のエネルギー解\(+\sqrt{m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2}\)のとき\(\rho\)は正の値になるが、エネルギー\(E\)が負のエネルギー解\(-\sqrt{m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2}\)のとき\(\rho\)は負の値になることがわかる。

\(\rho\)の形が異なる理由

 そもそも、なぜ、クライン-ゴルドン方程式における確率密度\(\rho\)はシュレーディンガー方程式における確率密度\(\rho=\varPsi\varPsi^*\)と異なっていたのだろうか。

 その原因は、シュレーディンガー方程式

\begin{align*}i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\varPsi=-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right)\varPsi\tag{11}\end{align*}

は時間に関して1階微分だが、クライン-ゴルドン方程式

\begin{align*}\left\{\frac{1}{c^2}\frac{\partial^2}{\partial t^2}-\left(\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{\partial^2}{\partial y^2}+\frac{\partial^2}{\partial z^2}\right)+\frac{m^2c^2}{\hbar^2}\right\}\phi=0\tag{12}\end{align*}

は時間に関して2階微分だからである。流れの保存の導入過程(次のページ参照,)を見れば分かるが、方程式が1階の時間微分なら確率密度\(\rho\)に時間微分は含まれない一方、方程式が2階の時間微分なら確率密度\(\rho\)に時間微分が含まれてしまう。

 時間微分とは対照的に空間微分はどちらの方程式においても2階微分のため、確率流密度\(\boldsymbol j\)

\begin{align*}\boldsymbol j&=-\frac{i\hbar}{2m}(\phi^*\nabla\phi-(\nabla\phi^*)\phi)\tag{13}\end{align*}

は同じ形になっており、1階の空間微分を含んでいる。

 クライン-ゴルドン方程式に2階の時間微分が含まれているのは、元となったアインシュタインの関係式

\begin{align*}E^2=m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2\tag{14}\end{align*}

がエネルギー\(E\)の二次式であり、正準量子化の際にエネルギー演算子の関係

\begin{align*}\hat E=i\hbar\frac{\partial }{\partial t}\tag{15}\end{align*}

を用いたからである。

 クライン-ゴルドン方程式において、時間に関して1階微分にすることができれば良いが、相対性理論の要請より時間と空間は対等に扱わなければならず、空間に関して2階微分なら、時間に関しても2階微分でなければならない。ただし、時間と空間どちらに関しても1階微分であれば、時間と空間を対等に扱いつつ、確率密度\(\rho\)を非負の値に保つことができるのでは?と思われる。実際に、これがディラック方程式が導かれたときの着眼点であり、このことは後のページで確認する。

スポンサーリンク

次ページから…

次ページでは、シュレーディンガー方程式には現れなかった負のエネルギー解がクライン-ゴルドン方程式に現れたのは、元となったアインシュタインの関係式

\begin{align*}E^2=m^2c^4+\boldsymbol p^2c^2\end{align*}

がエネルギー\(E\)の二次式だからであることを確認する。


前ページ】          【次ページ

HOME相対論的量子力学クライン-ゴルドン方程式確率解釈の問題点

タイトルとURLをコピーしました