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本ページでは、完全性とはどのような関数でもある古典物理量の演算子\(\hat F\)に対応する固有関数系\(\{\psi_i\}\)の一次結合で表すことができる性質であり、固有関数系が完全性をもつことを証明する。
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前ページでは、異なる固有値\(f_i\),\(f_j\)に対応する固有関数\(\psi_i\),\(\psi_j\)は直交
することを確認した。また、縮重している固有関数は一般的には直交しないが、シュミットの直交化法により、縮重している固有関数を含むすべての固有関数を直交化できることをみた。
内容
完全性とは
ある古典物理量の演算子\(\hat F\)に対応する固有関数系\(\{\psi_i\}\)が与えられたとき、「古典物理量の演算子\(\hat F’\)に対応するどのような固有関数\(\phi_j\)」でも固有関数系\(\{\psi_i\}\)の1次結合
で表すことができ、また、「どのような系の状態\(\varPsi\)」でも固有関数系\(\{\psi_i\}\)の重ね合わせ
で表すことができる。固有関数系\(\{\psi_i\}\)のように、どのような関数(または系の状態)でも一次結合(または重ね合わせ)で表すことができる関数系の性質を完全性という。
もし、固有関数系が規格直交系なら、完全性と併せて完全規格直交系と呼び、今後は一般的に完全規格直交系を扱う。
完全性の証明
ある古典物理量の演算子\(\hat F\)に対応する固有関数系\(\{\psi_i\}\)が完全性をもつことは、次のように証明できる。
初めに、固有関数系\(\{\psi_i\}\)に属さず、固有関数系\(\{\psi_i\}\)の関数すべてと直交する関数\(\psi’\)が存在すると仮定する。
関数\(\psi’\)は任意の固有関数\(\psi_i\)と直交するため
が成り立ち、 固有関数\(\psi_i\)の固有値\(f_i\)から定数\(f’\neq f_i\)を引いた
を式(4)の両辺に掛けると
と変形できる。
※※※式(5)の2行目への変形では固有値が実数であること
を用い、3行目への変形では固有値方程式
を用い、4行目への変形ではエルミート演算子の定義式
を用いた。
※※※
式(5)が成り立つためには
が成り立たないといけないため、式(9)より関数\(\psi’\)は古典物理量の演算子\(\hat F\)の固有値方程式を満たし、関数\(\psi’\)も固有関数であることが分かる。このことは、「関数\(\psi’\)は固有関数系\(\{\psi_i\}\)に属さず、固有関数系\(\{\psi_i\}\)の関数すべてと直交する」という仮定が間違えていることを示しており、固有関数系が完全性をもつことがわかる。
上記の証明で、「関数\(\psi’\)が固有関数系\(\{\psi_i\}\)の関数すべてと直交しないとき」があるのではと思いたくなる。しかし、その場合は関数\(\psi’\)から直交しなかった固有関数系の関数\(\psi_i\)の定数倍を引いて、関数\(\psi_i\)と直交する新たな関数\(\psi'{}’\)
を作れば、上記と同様に完全性を証明できる。
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次ページでは、系の状態\(\varPsi\)が古典物理量の演算子\(\hat F\)に対応する固有関数\(\psi_i\)の一次結合
で表されたとき、古典物理量\(F\)の測定を行なってある固有値が測定値となる確率は、その固有値に対応する固有関数\(\psi_i\)の展開係数の2乗\(\vert c_i\vert^2\)になることを確認する。