不確定性原理

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 本ページでは、ある系の状態\(\varPsi\)において、古典物理量の演算子\(\hat F\),\(\hat G\)が可換でないとき、古典物理量\(F\)と\(G\)を測定すると確定値は得られず、このときの不確定さ\(\Delta F\),\(\Delta G\)は次のロバートソンの不等式

\begin{align*}(\Delta F)^2(\Delta G)^2\geqq\frac{\vert〈[\hat F,\hat G]〉\vert^2}{4}\end{align*}

を満たすことを確認する。

 また、2つの演算子が次の交換関係

\begin{align*}[\hat F,\hat G]=i\hbar\end{align*}

を満たすとき、ハイゼンベルクの不確定性原理

\begin{align*}\Delta F\Delta G\geqq\frac{\hbar}{2}\end{align*}

の式が得られることも併せて確認する。

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前ページでは、ある系の状態\(\varPsi\)において、古典物理量\(F\),\(G\)の演算子\(\hat F\),\(\hat G\)が可換で、\(\hat F\)の固有値\(f_i\)が縮重しているとき、固有値\(f_i\)に対応する固有関数\(\psi_{ij}^f\)の適当な1次結合をとることによって、演算子\(\hat F\)および\(\hat G\)に共通な固有関数系\(\psi_{ij}^{f’}\)を作ることができることを確認した。

 また、このように、演算子\(\hat F\)の固有値\(f_i\)では縮重した状態であっても、\(\hat F\)と可換な演算子\(\hat G\)を用いることによって縮重状態を分離することができることを見た。

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内容

不確定性原理

 これまで、ある系の状態\(\varPsi\)において、古典物理量の演算子\(\hat F\),\(\hat G\)が可換なとき、古典物理量\(F\)と\(G\)は同時に確定値をとれることを確認した。

 それに対し、ある系の状態\(\varPsi\)において、古典物理量の演算子\(\hat F\),\(\hat G\)が可換でないとき、古典物理量\(F\)と\(G\)は同時に確定値をとることができない。

 例えば、古典物理量\(F\)が確定値\(f_i\)をとる状態\(\psi_i\)、すなわち、

\begin{align*}\hat F\psi_i=f_i\psi_i\tag{1}\end{align*}

が成り立つときを考える。古典物理量\(G\)を測定すると、演算子\(\hat G\)に対応する固有値のどれか一つは得られるが確定値は得られない、つまり

\begin{align*}\hat G\psi_i=g_i\psi_i\tag{2}\end{align*}

は成り立たない。逆も然り、古典物理量\(G\)が確定値\(g_i\)をとる状態\(\psi_i\)のとき、古典物理量\(F\)を測定すると、演算子\(\hat F\)に対応する固有値のどれか一つは得られるが確定値は得られない。

 このように、ある系の状態\(\varPsi\)において、古典物理量の演算子\(\hat F\),\(\hat G\)が可換でないとき、古典物理量\(F\)と\(G\)を測定すると確定値は得られず、このときの不確定さ\(\Delta F\),\(\Delta G\)は交換子\([\hat F,\hat G]\)の期待値\(〈[\hat F,\hat G]〉\)を用いて

\begin{align*}(\Delta F)^2(\Delta G)^2\geqq\frac{\vert〈[\hat F,\hat G]〉\vert^2}{4}\tag{3}\end{align*}

の関係を満たす。ここで、\(\Delta F\),\(\Delta G\)は標準偏差

\begin{align*}\Delta F&=\sqrt{〈F^2〉-〈F〉^2}\\\Delta G&=\sqrt{〈G^2〉-〈G〉^2}\tag{4}\end{align*}

である(なぜ、この形になるかは式(13),(14)を参照)。式(3)の関係をロバートソンの不等式という。特に、交換関係が

\begin{align*}[\hat F,\hat G]=i\hbar\tag{5}\end{align*}

であるとき、ロバートソンの不等式(3)は

\begin{align*}\Delta F\Delta G\geqq\frac{\hbar}{2}\tag{6}\end{align*}

の形となり、ハイゼンベルクの不確定性原理と呼ばれる。式(6)を眺めると、\(F\)の不確定さが小さくなるほど\(G\)の不確定さは大きくなり、\(G\)の不確定さが小さくなるほど\(F\)の不確定さは大きくなることが分かる。

不確定性原理の証明

 不確定性原理を証明する際に、測定値\(\hat F\),\(\hat G\)と期待値(平均値)\(〈F〉\),\(〈G〉\)との差である偏差を表す次の二つの演算子を導入する。

\begin{align*}\hat F’&=\hat F-〈F〉\tag{7}\\\hat G’&=\hat G-〈G〉\tag{8}\end{align*}

ここで、期待値\(〈F〉\)と\(〈G〉\)は演算子では無いため、\(\hat F’\)と\(\hat G’\)の交換関係は\(\hat F\)と\(\hat G\)の交換関係と等しい。

\begin{align*}[\hat F’,\hat G’]=[\hat F,\hat G]\tag{9}\end{align*}

 はじめに、次の量

\begin{align*}\int dv\ \vert(\lambda\hat F’+i\hat G’)\varPsi\vert^2\geqq0\tag{10}\end{align*}

を計算する。ここで、\(\lambda\)は実数であり、左辺の被積分関数は必ず\(0\)以上であるため、積分した左辺も必ず\(0\)以上になる。次に、式(10)を計算すると

\begin{align*}&\int dv\ \vert(\lambda\hat F’+i\hat G’)\varPsi\vert^2\\&=\int dv\ \{(\lambda\hat F’+i\hat G’)\varPsi\}^*\{(\lambda\hat F’+i\hat G’)\varPsi\}\\&=\int dv\ \{\lambda^2(\hat F’\varPsi)^*(\hat F’\varPsi)+i\lambda (\hat F’\varPsi)^*(\hat G’ \varPsi)-i\lambda(\hat G’\varPsi)^*(\hat F’\varPsi)+(\hat G’\varPsi)^*(\hat G’\varPsi)\}\\&=\int dv\ \varPsi^*(\lambda^2 \hat F’^2+i\lambda [\hat F,\hat G]+\hat G’^2)\varPsi\\&=\lambda^2\int dv\ \varPsi^* \hat F’^2\varPsi+\lambda i[\hat F,\hat G]\int dv\ \varPsi^*\varPsi+\int dv\ \varPsi^*\hat G’^2\varPsi\\&=\lambda^2(\Delta F)^2+\lambda i[\hat F,\hat G]+(\Delta G)^2\geqq0\tag{11}\end{align*}

となる。

※※※式(11)において、3つ目の等号では演算子\(\hat F’\)と\(\hat G’\)がエルミート演算子であり、エルミート演算子\(\hat A\)が満たす関係式

\begin{align*}\int dv\ (\hat A\varPsi)^*\varPsi=\int dv\ \varPsi^*\hat A\varPsi\tag{12}\end{align*}

を用い、5つ目の等号では次の関係

\begin{align*}\int dv\ \varPsi^*\hat F’^2\varPsi&=(\Delta F)^2\tag{13}\\\int dv\ \varPsi^*\hat G’^2\varPsi&=(\Delta G)^2\tag{14}\end{align*}

を用いた。偏差の2乗\(\hat F’^2\),\(\hat G’^2\)の期待値(平均値)は分散であるため、式(13),(14)の左辺は分散を表す。また、標準偏差\(\Delta F\),\(\Delta G\)の2乗は分散に相当するため式(13),(14)の関係が成り立つ。式(13),(14)の変形を進めると

\begin{align*}(\Delta F)^2&=\int dv\ \varPsi^*\hat F’^2\varPsi\\&=\int dv\ \varPsi^*(\hat F’-〈F〉)^2\varPsi\\&=\int dv\ \varPsi^*(\hat F^2-2〈F〉\hat F+〈F〉^2)\varPsi\\&=〈F^2〉-2〈F〉^2+〈F〉^2\\&=〈F^2〉-〈F〉^2\tag{15}\\(\Delta G)^2&=\int dv\ \varPsi^*\hat G’^2\varPsi\\&=\int dv\ \varPsi^*(\hat G’-〈G〉)^2\varPsi\\&=\int dv\ \varPsi^*(\hat G^2-2〈G〉\hat G+〈G〉^2)\varPsi\\&=〈G^2〉-2〈G〉^2+〈G〉^2\\&=〈G^2〉-〈G〉^2\tag{16}\end{align*}

となって、式(4)の関係が得られる。

※※※

式(11)が成り立つためには、\(\lambda\)の二次不等式と捉えると

\begin{align*}&〈[\hat F,\hat G]〉^2-4(\Delta F)^2(\Delta G)^2\leqq0\\&\rightarrow4(\Delta F)^2(\Delta G)^2\geqq〈[\hat F,\hat G]〉^2\\&\rightarrow(\Delta F)^2(\Delta G)^2\geqq\frac{1}{4}〈[\hat F,\hat G]〉^2\tag{17}\end{align*}

が成り立たなければならず、ロバートソンの不等式が導かれる。

例1:座標と運動量

 位置演算子\(\hat q_i\)と運動量演算子\(\hat p_j\)の間には、次の交換関係

\begin{align} [\hat{q_i},\ \hat{p_j}]=i\hbar\delta_{ij}\tag{18}\end{align}

が成り立つ(以前のページ参照)。そのため、\(i=j\)の条件では不確定性原理は

\begin{align*}\Delta q_i\Delta p_i\geqq\frac{\hbar}{2}\tag{19}\end{align*}

となり、同じ座標軸に沿って、同時に座標と運動量の確定値を得ることはできない。一方、\(i\neq j\)の条件では不確定性原理は

\begin{align*}\Delta q_i\Delta p_j\geqq0\tag{20}\end{align*}

となり、異なる座標軸に沿ってなら、同時に座標と運動量の確定値を得ることができる。

例2:エネルギーと時間

 時間に陽に依存しない物理量の演算子\(\hat F\)とハミルトニアン\(\hat H\)の間には、次のハイゼンベルク方程式

\begin{align} [\hat F\ ,\hat H]=i\hbar\frac{d\hat F}{dt}\tag{21}\end{align}

が成り立ち、ロバートソンの不等式に代入すると

\begin{align*}(\Delta F)^2(\Delta E)^2&\geqq\frac{\left|\left<i\hbar\frac{d\hat F}{dt}\right>\right|^2}{4}\\\rightarrow\Delta E \frac{\Delta F}{\left|\left<\frac{d\hat F}{dt}\right>\right|}&\geqq\frac{\hbar}{2}\tag{23}\end{align*}

となる。\(\frac{\Delta F}{\left|\left<\frac{d\hat F}{dt}\right>\right|}\)は時間の次元を持つため

\begin{align*}\frac{\Delta F}{\left|\left<\frac{d\hat F}{dt}\right>\right|}=\Delta \tau\tag{24}\end{align*}

と置くと

\begin{align*}\Delta E\Delta \tau&\geqq\frac{\hbar}{2}\tag{25}\end{align*}

となり、エネルギー\(E\)と時間\(\tau\)の間にも不確定性原理が存在することが分かる。

 ここで、時間\(\tau\)はシュレーディンガー方程式に現れる時間\(t\)とは異なる。式(24)を眺めると、時間\(\tau\)の標準偏差\(\Delta \tau\)は「物理量\(F\)の標準偏差\(\Delta F\)」を「微小時間\(dt\)当たりの物理量\(F\)の微小変化量の期待値」で割った値なので、\(\Delta \tau\)は「物理量\(F\)の値が標準偏差分だけ変化するのにかかる時間の標準偏差」であることが分かる。

 例として、系の状態があるエネルギー固有状態であるとき、\(\Delta E=0\)であり、式(25)より\(\Delta \tau=\infty\)にならなければならず、物理量\(F\)の値が変化するのにかかる時間の標準偏差\(\Delta \tau\)は\(\infty\)、つまり変化しない。

 もう一つの例として、エネルギーの標準偏差\(\Delta E\)が大きいとき、物理量\(F\)の値が変化するのにかかる時間の標準偏差\(\Delta \tau\)は小さくなる。不安定な素粒子の寿命\(\Delta\tau\)はかなり短いため、この不確定性原理より、不安定粒子のエネルギーの不確定さ\(\Delta E\)はかなり大きくなる。

 最後の例として、様々な分光測定のスペクトルのピークがブロードするのはこの不確定性原理によるものであり、励起状態の寿命\(\tau\)が長ければエネルギーの不確定さ\(\Delta E\)は小さくなりスペクトルはシャープに、励起状態の寿命\(\Delta \tau\)が短ければエネルギーの不確定さ\(\Delta E\)は大きくなりスペクトはブロードになる。

 エネルギーと時間の間にある不確定性原理を「短時間ならエネルギーの不確定さが増すので、短時間ではエネルギー保存則を破ることができる。」と解釈する人もいるが、正しくはないため注意が必要である。

観察者効果との区別

 不確定性原理と混同しやすい効果として、観察者効果がある。観察者効果とは、系を測定する行為自体が系に影響を与えてしまい、測定値に不確定さが現れてしまうというものである。例えば、電子の位置を光子を用いて測定しようとすると、光子は電子と相互作用して電子の軌道は変化してしまう。

 それに対し、不確定性原理は測定行為の影響による不確定さと関係なく、測定による不確定さを排除しても、量子系の基本的特性によって不確定さが現れることを表す原理である。そのため、不確定性原理と観察者効果は異なるものである。しかし、ハイゼンベルク自身が当初不確定性原理に対して与えた説明も観察者効果であり、混同には注意する必要がある。


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