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本ページでは、シュレーディンガー方程式の解である波動関数\(\varPsi’\)を絶対値2乗すると確率密度に比例し、調整した定数\(C\)を波動関数\(\varPsi’\)に掛けた波動関数\(\varPsi\)
の絶対値2乗は確率密度になること(ボルンの規則)を、二重スリットの実験結果から考察する。
内容
波動関数の正体
以前のページで、エネルギーとハミルトニアンに関する固有値方程式から時間に依存するシュレーディンガー方程式
を導いた。
ここで疑問が湧くが、この波動関数\(\varPsi\)は何を表すのだろうか。一つ一つ現象を遡って考えてみる。波動関数\(\varPsi\)はシュレーディンガー方程式(1)から得られ、シュレーディンガー方程式(1)は粒子性と波動性の両方を光や物質が満たすという実験結果から導かれた。波動性を表した実験としては干渉や回折があり、これらの実験結果を調べれば波動関数\(\varPsi\)の正体が分かると予想できる。
ヤングの実験
例として、干渉と回折の現象に関係するヤングの実験を考える。ヤングは、光を2つのスリットに通すと、スリットを通った先のスクリーン上に暗・明・暗・明・暗・・・の干渉縞が現れることを見つけた。これは、2つのスリットから出た光の波動(または、単に波)\(\varPsi_1’\)と\(\varPsi_2’\)が干渉したからであり、それぞれの波動を足し合わせた\(\varPsi’\)
はスクリーン手前では節と腹をもつ定常波
になって、スクリーンに到達する時に節が暗、腹が明に対応して干渉縞になる。この結果は、光を粒子と考えると説明できず、光を波動と考えたとき、スクリーン上に現れた干渉縞の明暗強度\(E\)(光のエネルギーに相当する)は、\(\varPsi’\)を絶対値2乗したもの\(\vert \varPsi’\vert^2\)に比例
していた。
ヤングの実験は19世紀初めに行われ、当時、光は波動と思われていたため、光自体が波動の形をしており、2つのスリットに通す光をどれだけ弱くしても(粒子性の言葉を使うと、光子1つだけを2つのスリットに撃ち込んでも)、スクリーンには明暗の干渉縞が現れ、実験を繰り返すと干渉縞が明瞭になると思われていた。
二重スリットの実験
ヤングの実験の時代、光子1つのみを2つのスリットに撃ち込む技術はなかったため、上記の考察はあくまで予想であったが、技術が発展して実際に光子1つのみを2つのスリットに撃ち込めるようになると、予想とは異なる結果が得られた。ここで、このように光子1つのみを使った実験を二重スリットの実験といい、ヤングの実験と区別する。光子1つのみを撃ち込んだ結果、ヤングの実験結果とは異なり、スクリーンには干渉縞は現れず、スクリーンの1点のみが明るくなるだけであり、この結果は粒子性を表していた。また、この実験を何度も繰り返し、スクリーン上の明るくなった点をいくつも重ねていくとヤングの実験結果と同様の干渉縞が現れ、この結果は波動性を表していた。これらの結果は光のみならず、物質でも同結果が得られ、粒子と波動の二重性を表した実験結果となる。
二重スリットの実験において、いくつもの実験結果を重ねて現れた干渉縞の明暗強度\(E\)(光子のエネルギー)は、ヤングの実験と同様、2つのスリットから出た光の波動の式\(\varPsi_1’\)と\(\varPsi_2’\)を足し合わせた\(\varPsi’\)を絶対値2乗したもの\(\vert\varPsi’\vert^2\)に比例
していた。また、単色光(\(\omega\)が一定)で実験したときはアインシュタインの式より、光のエネルギー\(E\)は光子の個数\(n\)に比例
するため、単位空間内で光子が検出される確率を表す確率密度\(P\)は、単位空間当たりの光のエネルギー\(E\)に比例
し、式(4)より確率密度\(P\)は波動関数の絶対値2乗\(\vert\varPsi’\vert^2\)にも比例
することが分かる。波動関数\(\varPsi’\)に定数\(C\)を掛けた関数\(\varPsi\)もシュレーディンガー方程式(1)を満たす波動関数であるため、掛ける定数\(C\)を上手く選ぶことによって、波動関数\(\varPsi\)の絶対値2乗を確率密度\(P\)と等しくすることができる。
そして、確率密度\(\vert\varPsi\vert^2\)に微小空間\(dv\)をかけた値\(dv\ \vert\varPsi\vert^2\)は、微小空間に光子が検出される確率に等しくなる。
ボルンの規則
以上より、波動関数\(\varPsi\)の正体が見えた。それは、「波動関数の絶対値2乗\(\vert \varPsi\vert^2\)は確率密度を表し、確率密度に範囲\(dv\)を掛けた値は、測定を行なったときに範囲\(dv\)に粒子が見出される確率を表す」というものであり、この法則をボルンの規則という。どのような波動関数\(\varPsi’\)でも絶対値2乗が確率密度になるわけではないが、調整された定数\(C\)を掛ければ絶対値2乗が確率密度を表す波動関数\(\varPsi\)になる。ここで、単なる2乗ではなく絶対値2乗となっているのは、波動関数が複素数の可能性もあるからである(逆に考えると、絶対値2乗であるから、波動関数が複素数でも許される)。
上記の\(\vert\varPsi\vert^2\)に関する説明で「測定を行なったとき」と書いたが、「測定を行なっていないとき」に関しては何も述べていないことに注意する。これは、我々は測定を行わなければ粒子分布が得られないからであり、測定を行なっていないときの粒子分布は知る由もない。そのため、測定を行なっていないときの粒子の分布をあたかも表していると誤解を与える「存在確率」という言葉は避けるべきである。
確率振幅
ハミルトニアンが時間に依存しないとき、エネルギーの固有関数は
と表すことができることを以前のページで確認した。エネルギーの固有関数も時間に依存するシュレーディンガー方程式を満たすため、ボルンの規則より確率密度を計算すると
となり、振幅\(\psi(q)\)の絶対値2乗に等しくなる。なぜ、振幅\(\psi(q)\)の絶対値2乗が確率密度になるかを、別の視点から見てみる。
質量\(m\)の粒子が座標\(q\)に存在し、振幅\(\psi'(q)\)で単振動しているとき、古典論的に振動エネルギーは
となり、エネルギーは振幅\(\psi'(q)\)の絶対値2乗に比例
することが分かる。そして、アインシュタインの式(5)より、\(\omega\)が一定で実験したとき、単位空間当たりの粒子のエネルギー\(E\)は、単位空間内で粒子が検出される確率を表す確率密度\(P\)に比例
するため、振幅\(\psi'(q)\)の絶対値2乗は確率密度\(P\)に比例
することが分かる。最後に、波動関数\(\psi'(q)\)に適切な定数を掛けて波動関数\(\psi(q)\)にすることによって、振幅\(\psi(q)\)の絶対値2乗は確率密度\(P\)と等しくなることがわかる。
波動関数\(\psi(q)\)は振幅を表し、絶対値2乗が確率密度となることから、確率振幅とも呼ばれる。
次ページから⋯
次ページでは、二乗すると確率密度を表す波動関数に変換する操作の規格化について調べ、規格化定数\(C\)を求める。また、位相因子\(e^{i\theta}\)が掛かっても確率密度が変わらないことを確かめる。
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