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ウルツ-フィッティッヒ反応とは
ウルツ-フィッティッヒ反応とは、ハロゲン化アリールAr-Xとハロゲン化アルキルR-X’を金属ナトリウムで処理して置換芳香族化合物を得るクロスカップリング反応であり、1864年にルドルフ・フィッティッヒによってウルツ反応の改良反応として発見された(i)(ii)(iii)(iv)。
アルカリ金属は多くの官能基と反応してしまうため、この反応で使用できる基質は限られ、後述する例を除いてウルツ・フィティッヒ反応の有用性は低い。
反応機構
反応機構としてはラジカル反応機構(v)(vi)とイオン反応機構(vii)の二つが提唱されている。反応基質によって、どちらかの反応機構のみが起こっている場合や、2つの反応機構が同時に起こっている場合がある。
ラジカル反応機構
①1電子移動(SET)
金属ナトリウムによってハロゲン化アリールAr-Xの結合とハロゲン化アルキルR-X’の結合がラジカル開裂し、二種類のラジカル種Ar・とR・が生成する。
②ラジカルカップリング
二種類のラジカル種Ar・とR・が反応して、炭素-炭素共有結合Ar-Rが形成され、クロスカップリング反応が完了する。
イオン反応機構
①1電子移動(SET)
初めに、金属ナトリウムによってハロゲン化アルキルR-Xの結合がラジカル開裂し、アルキルラジカルR・が生成する。
②1電子移動(SET)
アルキルラジカルR・と金属ナトリウムとが反応して有機ナトリウム中間体R-Naが生成し、ハロゲン・金属交換反応が完了する。
③芳香族求核置換反応
有機ナトリウム中間体R-Naがハロゲン化アリールAr-Xに芳香族求核置換反応を起こしてクロスカップリング体が生成する。
副反応
アルキル基が対称的に結合したアルカン(ウルツカップリング)やアリール基が対称的に結合したジアリール(ウルマンカップリング)が副生成物として生成される。もし、容易にアルカンが分離できる場合は、過剰のナトリウムとハロゲン化アルキルを使用しても良い。
その他の副反応としては、塩基性度の高い有機ナトリウム中間体R-Naがハロゲンのα位のプロトンを引き抜きアルケンが生じる反応が起こる。また、転位反応も起きやすい。
適用範囲
ハロゲン化アリールAr-Xとハロゲン化アルキルR-X
アルカリ金属は多くの官能基と反応してしまうため、この反応で使用できる基質は極めて限られ、ほとんどの場合、単純なハロゲン化アルキルやハロゲン化アリールが用いられる。ハロゲンXとしてはヨウ化物、臭化物、塩化物を用いることができ、この順に結合が強くなるため反応性は低くなる。(1cal=4.2J)
結合の強さ (kJ/mol)
CH3-I…238
CH3-Br…293
CH3-Cl…356
CH3-F…460
C6H5-I…283
C6H5-Br…336
C6H5-Cl…383
通常、ハロゲン化アリールAr-Xよりもハロゲン化アルキルR-Xの方が結合は弱くアルカリ金属との反応が早いため、ハロゲン化アルキルR-Xと金属ナトリウムの反応が優先的に起きてアルキルナトリウムR-Naが生じ、それがハロゲン化アリールAr-Xと反応することによってクロスカップリング体が得られる。
金属
金属としては、カリウムやナトリウム、リチウムを用いることができるが、リチウムは反応性が低い。
溶媒
アルカリ金属は多くの官能基と反応してしまうため、溶媒としては非プロトン性溶媒のエーテルが主に用いられる。
応用例
有機反応以外
有機合成以外の例として、ハロゲン化物のカップリングに用いられる。例えば、クロロシランをリチウム処理した臭化アルケニルなどと反応させてビニルシランが生成する(viii)。
実験手順
反応例
ブロモベンゼンとヨードメタンを反応させると、トルエンが得られる。
関連反応
参考文献
(i)Wurtz, A. Ann. Chim. Phys. 1855, 44, 275–312.
(ii)Wurtz, A. Ann. Chem. Pharm.1855, 96, 364–375.
(iii) Tollens, B.; Fittig R. Ann. Chem. Pharm. 1864, 131, 303–323.
(iv) Fittig, R.; König, J. Ann. Chem. Pharm. 1867, 144, 277–294.
(v) Wooster, C. B. Chem. Rev. 1932, 11, 1–91.
(vi) Gilman, H.; Wright, G. F. J. Am. Chem. Soc. 1933, 55, 2893–2896.
(vii)Bachmann, W. E.; Clarke, H. T. J. Am. Chem. Soc. 1927, 49, 2089–2098.
(viii) Adam, W.; Richter, M. J. Synthesis 1994, 2, 176–180.
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