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本ページでは、流れの保存の関係式
\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}\rho+\nabla\cdot \boldsymbol j=0\end{align*}
を確認し、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\varPsi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことを確認する。
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前ページでは、ある系の状態\(\varPsi\)において、古典物理量の演算子\(\hat F\),\(\hat G\)が可換でないとき、古典物理量\(F\)と\(G\)を測定すると確定値は得られず、このときの不確定さ\(\Delta F\),\(\Delta G\)は次のロバートソンの不等式
\begin{align*}(\Delta F)^2(\Delta G)^2\geqq\frac{\vert〈[\hat F,\hat G]〉\vert^2}{4}\end{align*}
を満たすことを確認した。
また、2つの演算子が次の交換関係
\begin{align*}[\hat F,\hat G]=i\hbar\end{align*}
を満たすとき、ハイゼンベルクの不確定性原理
\begin{align*}\Delta F\Delta G\geqq\frac{\hbar}{2}\end{align*}
の式が得られることも併せて確認した。
内容
流れの保存
確率密度\(\rho\)と確率流密度\(\boldsymbol j\)と呼ばれる量を次のように定義
\begin{align*}\rho&=\varPsi\varPsi^*\tag{1}\\\boldsymbol j&=-\frac{i\hbar}{2m}(\varPsi^*\nabla\varPsi-(\nabla\varPsi^*)\varPsi)\tag{2}\end{align*}
したとき、次の式
\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}\rho+\nabla\cdot \boldsymbol j=0\tag{3}\end{align*}
が成り立つ。この関係式を流れの保存と呼ぶ。「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\varPsi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことが保証され、そのことは後ほど確認してみる。
流れの保存の導出
ここでは、流れの保存の関係式が成り立つことを見てみる。まず、時間に依存するシュレーディンガー方程式
\begin{align*}i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\varPsi&=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2\varPsi+V\varPsi\tag{4}\end{align*}
と両辺の複素共役をとった次の方程式
\begin{align*}-i\hbar\frac{\partial}{\partial t}\varPsi^*&=-\frac{\hbar^2}{2m}\nabla^2\varPsi^*+V\varPsi^*\tag{5}\end{align*}
を準備する。式(4)の両辺に左から波動関数\(\varPsi^*\)を、式(5)の両辺に左から波動関数\(\varPsi\)をかけると
\begin{align*}i\hbar\varPsi^*\frac{\partial}{\partial t}\varPsi&=-\frac{\hbar^2}{2m}\varPsi^*\nabla^2\varPsi+V\varPsi^*\varPsi\tag{6}\\-i\hbar\varPsi\frac{\partial}{\partial t}\varPsi^*&=-\frac{\hbar^2}{2m}\varPsi\nabla^2\varPsi^*+V\varPsi\varPsi^*\tag{7}\end{align*}
となり、2式の差をとると
\begin{align*}i\hbar\varPsi^*\frac{\partial}{\partial t}\varPsi+i\hbar\varPsi\frac{\partial}{\partial t}\varPsi^*=-\frac{\hbar^2}{2m}\varPsi^*\nabla^2\varPsi+\frac{\hbar^2}{2m}\varPsi\nabla^2\varPsi^*\tag{8}\end{align*}
となる。最後に、両辺を部分積分の形から積の積分の形に変更すると
\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}(\varPsi\varPsi^*)=\frac{i\hbar}{2m}\nabla\cdot(\varPsi^*\nabla\varPsi-\varPsi\nabla\varPsi^*)\tag{9}\end{align*}
となり、右辺を左辺に移行させると
\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}(\varPsi\varPsi^*)-\frac{i\hbar}{2m}\nabla\cdot(\varPsi^*\nabla\varPsi-\varPsi\nabla\varPsi^*)=0\tag{10}\end{align*}
となって、確率密度\(\rho\)と確率流密度\(\boldsymbol j\)を用いて表すと
\begin{align*}\frac{\partial}{\partial t}\rho+\nabla\cdot \boldsymbol j=0\tag{3}\end{align*}
となって、流れの保存が導かれる。
流れの保存の応用
次に、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\varPsi\)がゼロに収束すること」を満たせば、確率密度\(\rho\)の全空間積分は保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分は一定となる)ことを確認してみる。このことは、次のように確率密度\(\rho\)の全空間積分を時間微分したときにゼロになることを確かめればよい(ここで、\(d^3\boldsymbol x=dxdydz\)としている)。
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=0\tag{11}\end{align*}
まず、確認すべき式(11)の左辺を変形して流れの保存の関係式を用いると
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho&=\int d^3\boldsymbol x\ \frac{\partial}{\partial t}\rho\\&=-\int d^3\boldsymbol x\ \nabla\cdot \boldsymbol j\tag{12}\end{align*}
となり、ガウスの発散定理
\begin{align*}\int d^3\boldsymbol x\ \nabla\cdot \boldsymbol j=\int_S dS\ \boldsymbol n\cdot \boldsymbol j\tag{13}\end{align*}
を用いると
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=-\int_S dS\ \boldsymbol n\cdot \boldsymbol j\tag{14}\end{align*}
と表すことができる。最後に、「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\varPsi\)がゼロに収束すること」を用いると、空間の無限遠では常に確率流密度\(\boldsymbol j\)
\begin{align*}\boldsymbol j&=-\frac{i\hbar}{2m}(\varPsi^*\nabla\varPsi-(\nabla\varPsi^*)\varPsi)\tag{2}\end{align*}
はゼロになるはずであり、式(14)の右辺において無限遠で面積分を行なえばゼロとなり式(11)が成り立つことが分かる。
\begin{align*}\frac{d}{dt}\int d^3\boldsymbol x\ \rho=0\tag{11}\end{align*}
ここで、確率密度\(\rho\)の全空間積分が保存する(つまり、どの時刻においても確率密度\(\rho\)の全空間積分が一定となる)ためには、「流れの保存」と「どの時刻においても、空間の無限遠で波動関数\(\varPsi\)がゼロに収束すること」さえ満たせば、確率密度\(\rho\)と確率流密度\(\boldsymbol j\)はどのような形でもよいことに注意する。
次ページから…
次ページでは、重ね合わせ状態の波動関数が測定することによって1つの固有関数に変化する現象である波動関数の収縮をみて、二重スリットの実験とサイコロを例のとり、解釈をしてみる。
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