自由粒子

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本ページでは…

 本ページでは、自由粒子における時間に依存しないシュレーディンガー方程式

\begin{align*}-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\psi_k=E\psi_k\end{align*}

を周期的境界条件の下で解き、波動関数\(\psi_n\)

\begin{align*}\psi_k=\sqrt{\frac{1}{2\pi}}e^{i{kx}}\end{align*}

とエネルギー準位

\begin{align*}E=\frac{\hbar^2k^2}{2m}\end{align*}

を求める。

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前ページでは、無限に深い井戸型ポテンシャルにおける時間に依存しないシュレーディンガー方程式

\begin{align*}\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2 }{\partial x^2}+\frac{\partial ^2}{\partial y^2}+\frac{\partial ^2}{\partial z^2}\right)+V\right\}\psi_n=E\psi_n\tag{1}\end{align*}

を解き、波動関数\(\psi_n\)

\begin{align*}\psi_n=\sqrt{\frac{8}{abc}}\sin\frac{n_x\pi}{a}x\sin\frac{n_y\pi}{b}y\sin\frac{n_z\pi}{c}z\tag{2}\end{align*}

とエネルギー準位\(E\)

\begin{align*}E&=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_x{}^2}{a^2}+\frac{n_y{}^2}{b^2}+\frac{n_z^2}{c^2}\right)\tag{3}\end{align*}

を求めた(ただし、\(n_x\),\(n_y\),\(n_z\)は\(1,2,3,\cdots\))。

 また、井戸の形が立方体のとき、縮重状態が存在することを確認した。

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内容

自由粒子とは

 自由粒子とは、座標によらずポテンシャルエネルギー\(V\)が一定である空間に存在する粒子のことをいう。計算を簡単にするために、ポテンシャルエネルギー\(V\)は\(0\)とおく。

 自由粒子が存在するときにエネルギー\(E\)の固有関数\(\varPsi_n\)を求めてみる。もし、系の状態\(\varPsi\)を求めたいときは、エネルギー固有関数\(\varPsi_n\)の一次結合で表すことができる。

\begin{align*}\varPsi=\sum_{n}c_n\varPsi_n\tag{1}\end{align*}

 今回、ハミルトニアンは

\begin{align*}H=\frac{p_x^2}{2m}\tag{2}\end{align*}

であり、ハミルトン演算子\(\hat H\)は

\begin{align*}\hat H=-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\tag{3}\end{align*}

となる。今回のハミルトニアンは時間に依存しないため、エネルギー固有関数\(\varPsi_n\)は以前のページより

\begin{align*}\varPsi_n=\psi_ne^{-i(E/\hbar)t}\tag{4}\end{align*}

であり、波動関数\(\psi_n\)の形は時間に依存しないシュレーディンガー

\begin{align*}\hat H\psi_n=E\psi_n\tag{5}\end{align*}

を解けば求めることができる。式(5)の具体的な形は

\begin{align*}-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}\psi_n=E\psi_n\tag{6}\end{align*}

であり、以後、解きやすいように

\begin{align*}\frac{d^2\psi_n}{dx^2}+\frac{2mE}{\hbar^2}\psi_n=0\tag{7}\end{align*}

と変形しておく。

自由粒子の波動関数\(\psi_n\)

 自由粒子のシュレーディンガー方程式(7)はすぐに解くことができ、一般解は

\begin{align*}\psi_n=Ae^{i(\sqrt{2mE}/\hbar)x}+Be^{-i(\sqrt{2mE}/\hbar)x}\tag{8}\end{align*}

となる。

周期的境界条件

 無限に深い井戸型ポテンシャルのときは境界条件が存在していたが、今回の自由粒子では境界条件が存在しない。一般的に、境界条件が存在しなければ微分方程式であるシュレーディンガー方程式を解くことはできないため、今回のように境界条件が存在しないとき、次のような周期的境界条件

\begin{align*}\psi_n(x)=\psi_n(x+a)\tag{9}\end{align*}

を設け、定義域の範囲が\(a\)の波動関数\(\psi_n\)が周期的に繰り返すと考える。

 例えば、空間に多数の粒子が均一に存在するとき、空間に特別な場所はないため、空間を範囲\(a\)ずつに切り取っても、それぞれの範囲は同じ状態になっているはずである。さらに、上手く範囲\(a\)を選ぶことにより、範囲\(a\)の中に粒子が一つだけの状態を作ることができ、規格化を行うことができる。

 実際に周期的境界条件の式(9)に一般解の式(8)を代入してみると

\begin{align*}Ae^{i(\sqrt{2mE}/\hbar)x}+Be^{-i(\sqrt{2mE}/\hbar)x}=Ae^{i(\sqrt{2mE}/\hbar)(x+a)}+Be^{-i(\sqrt{2mE}/\hbar)(x+a)}\tag{10}\end{align*}

となり、どのような定数\(A\),\(B\)でも成り立つためには

\begin{align*}e^{\pm i(\sqrt{2mE}/\hbar)a}=1\\\rightarrow\frac{\sqrt{2mE}}{\hbar}a=2n\pi\tag{11}\end{align*}

でなければならないため、波動関数\(\psi_n\)は

\begin{align*}\psi_n=Ae^{i(2n\pi/a)x}+Be^{-i(2n\pi/a)x}\tag{12}\end{align*}

となる(\(n=0,1,2,3,\cdots\))。ここで、波数ベクトルの\(x\)成分である\(k_x\)は

\begin{align*}k_x=\frac{2n\pi}{a}\tag{13}\end{align*}

と表されるため、この関係式を用いると式(12)は

\begin{align*}\psi_n=Ae^{ik_xx}+Be^{-ik_xx}\tag{14}\end{align*}

となる。

 定数\(A\),\(B\)は、「波動関数\(\psi_n\)の絶対値2乗が確率密度を表す」と仮定した際の規格直交関係

\begin{align*}\delta_{nn’}&=\int_{-a/2}^{a/2} dx\ \psi_n^*\psi_{n’}\tag{15}\end{align*}

から求めることができる。実際に\(n’=n\)と置いて計算すると

\begin{align*}1&=\int_{-a/2}^{a/2} dx\ \vert\psi_n\vert^2\\&=\int_{-a/2}^{a/2} dx\ (A^*e^{-ik_xx}+B^*e^{ik_xx})(Ae^{ik_xx}+Be^{-ik_xx})\\&=\int_{-a/2}^{a/2} dx\ (\vert A\vert^2+\vert B\vert^2+A^*Be^{-2ik_xx}+AB^*e^{2ik_xx})\\&=\left[(\vert A\vert^2+\vert B\vert^2)x-A^*B\frac{1}{2ik_x}e^{-2ik_xx}+AB^*\frac{1}{2ik_x}e^{2ik_xx}\right]_{-a/2}^{a/2}\\&=(\vert A\vert^2+\vert B\vert^2)a-A^*B\frac{1}{2ik_x}(e^{-ik_xa}-e^{ik_xa})+AB^*\frac{1}{2ik_x}(e^{ik_xa}-e^{-ik_xa})\\&=(\vert A\vert^2+\vert B\vert^2)a-A^*B\frac{1}{2ik_x}(e^{-2in\pi}-e^{2in\pi})+AB^*\frac{1}{2ik_x}(e^{2in\pi}-e^{-2in\pi})\\&=(\vert A\vert^2+\vert B\vert^2)a-A^*B\frac{1}{2ik_x}(-2i\sin{2n\pi})+AB^*\frac{1}{2ik_x}(2i\sin 2n\pi)\\&=(\vert A\vert^2+\vert B\vert^2)a\tag{16}\end{align*}

となり、規格化定数\(A\)と\(B\)は

\begin{align*}\vert A\vert^2+\vert B\vert^2&=\frac{1}{a}\tag{17}\end{align*}

の関係を満たす。

 波動関数の式(14)を用いてエネルギー固有関数\(\varPsi_n\)を求めると、式(4)より

\begin{align*}\varPsi_n=Ae^{i\{k_xx-(E/\hbar)t\}}+Be^{i\{-k_xx-(E/\hbar)t\}}\tag{18}\end{align*}

となって、正方向に進む複素平面波\(Ae^{i\{k_xx-(E/\hbar)t\}}\)の第1項と負方向に進む複素平面波\(Be^{i\{-k_xx-(E/\hbar)t\}}\)の第2項の1次結合で表されることが分かる。また、井戸型ポテンシャルのときは式(18)の第1項または第2項だけでは境界条件を満たせなかったが、今回の自由粒子においては第1項または第2項だけでも周期的境界条件を満たせてエネルギー固有関数になれるため、正方向または負方向に進む複素平面波どちらも同じエネルギー固有値を持つ縮重状態である。以前のページで話したように、縮重状態の一次結合で無数の固有関数を作ることができるが、ここではそれぞれの固有関数が直交するように、エネルギー固有関数\(\varPsi_n\)はどちらかの方向に進む複素平面波と置く。

\begin{align*}\varPsi_n=Ae^{i\{k_xx-(E/\hbar)t\}}\tag{19}\end{align*}

ここで、式(18)の規格化定数\(B\)をゼロと置いて、\(n=0,\pm1,\pm2,\pm3\cdots,\cdots\)とした。このときの波動関数\(\psi_n\)は

\begin{align*}\psi_n=Ae^{i{k_xx}}\tag{20}\end{align*}

であり、規格化を行なうと式(17)より

\begin{align*}\psi_n=\sqrt{\frac{1}{a}}e^{i{k_xx}}\tag{21}\end{align*}

となる(位相因子を\(1\)と置いた)。

デルタ関数による規格化

 全空間に自由粒子が一つだけ存在するときの波動関数\(\psi_n\)を求めるため、波動関数の式(21)に関して周期的境界条件の範囲\(a\)の極限\(\lim_{a\rightarrow\infty}\)をとると、波動関数\(\psi_n\)はゼロになってしまう。このように、通常の規格化条件(15)で規格化できないときの対処法を考えてみる。

 初めに、通常の規格直交関係の式(15)に波動関数の式(21)を代入すると

\begin{align*}\delta_{nn’}&=\int_{-a/2}^{a/2} dx\ \psi_n^*\psi_{n’}\\&=\frac{1}{a}\int_{-a/2}^{a/2} dx\ e^{-ik_xx}e^{ik’_xx}\\&=\frac{1}{a}\int_{-a/2}^{a/2} dx\ e^{i(k’_x-k_x)x}\\&=\frac{\Delta k_x}{2\pi}\int_{-\pi/\Delta k_x}^{\pi/\Delta k_x} dx\ e^{i(k’_x-k_x)x}\\\rightarrow\frac{\delta_{nn’}}{\Delta k_x}&=\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi/\Delta k_x}^{\pi/\Delta k_x} dx\ e^{i(k’_x-k_x)x}\tag{22}\end{align*}

と変形できる。

※※※ここで、4番目の等号では\(n\)番目の波数ベクトル\(x\)成分と\(n+1\)番目の波数ベクトル\(x\)成分の差を\(\Delta k_x\)

\begin{align*}\Delta k_x=\frac{2\pi}{a}\tag{23}\end{align*}

と定義した。※※※

 次に、極限\(\lim_{a\rightarrow\infty}\)(または、\(\lim_{\Delta k_x\rightarrow0}\))をとると式(23)より\(k_x\)は連続変数となり、式(22)の左辺は、\(k_x=k’_x\)(\(n=n’\))のときに正の無限の値をとり、\(k_x\neq k’_x\)(\(n\neq n’\))のときにゼロの値をとることから、デルタ関数\(\delta(k’_x-k_x)\)と同じ振る舞いをすることが分かる。このことは、式(22)の右辺を計算することからも分かり、実際に計算をすると

\begin{align*}\lim_{\Delta k_x\rightarrow 0}\frac{1}{2\pi}\int_{-\pi/\Delta k_x}^{\pi/\Delta k_x} dx\ e^{i(k’_x-k_x)x}&=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} dx\ e^{i{(k’_x-k_x)x}}\\&=\left[\frac{1}{2i(k’_x-k_x)\pi} e^{i(k’_x-k_x)x}\right]_{-\infty}^{\infty}\\&=\lim_{b\rightarrow\infty}\frac{1}{2i(k’_x-k_x)\pi} \left(e^{i(k’_x-k_x)b}-e^{-i(k’_x-k_x)b}\right)\\&=\lim_{b\rightarrow\infty}\frac{1}{2i(k’_x-k_x)\pi} \left(2i\sin {(k’_x-k_x)b}\right)\\&=\lim_{b\rightarrow\infty}\frac{\sin {(k’_x-k_x)b}}{(k’_x-k_x)\pi} \\&=\delta(k’_x-k_x)\tag{24}\end{align*}

となる。

※※※最後の等号において、極限\(\lim_{b\rightarrow\infty}\)の下で\(\text{Sinc}\)関数の一種である\(\frac{\sin bx}{\pi x}\)が\(x=0\)の点で正の無限大、\(x=0\)の点以外でゼロの値をとり、ディレクレ積分

\begin{align*}\int_{0}^\infty dx \ \frac{\sin x}{x}=\frac{\pi}{2}\tag{25}\end{align*}

より\(\frac{\sin bx}{\pi x}\)の全空間積分が

\begin{align*}\int_{-\infty}^\infty dx \ \frac{\sin bx}{\pi x}&=2\int_{0}^\infty dx \ \frac{\sin bx}{\pi x}\\&=\frac{2}{\pi}\int_{0}^\infty bdx \ \frac{\sin bx}{bx}\\&=1\tag{26}\end{align*}

となって\(1\)となることからも、式(24)の右辺はデルタ関数\(\delta(k’_x-k_x)\)と同じ振る舞いをすることが分かる。※※※

 以上より、自由粒子において通常の規格直交関係

\begin{align*}\delta_{nn’}&=\frac{1}{a}\int_{-a/2}^{a/2} dx\ e^{i(k’_x-k_x)x}\tag{27}\end{align*}

は、デルタ関数を用いて

\begin{align*}\delta (k’_x-k_x)=\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} dx\ e^{i{(k’_x-k_x)x}}\tag{28}\end{align*}

と表せることが分かる。通常の規格直交関係式(27)から波動関数\(\psi_n\)

\begin{align*}\psi_n=\sqrt{\frac{1}{a}}e^{i{k_xx}}\tag{21}\end{align*}

を求めると極限\(\lim_{a\rightarrow\infty}\)でゼロになってしまうが、デルタ関数を用いた規格直交関係式(28)から波動関数\(\psi_{k_x}\)

\begin{align*}\psi_{k_x}=\sqrt{\frac{1}{2\pi}}e^{i{k_xx}}\tag{29}\end{align*}

を求めると極限\(\lim_{a\rightarrow\infty}\)でもゼロにならないため、通常の規格直交関係で規格化できない場合、次のデルタ関数を用いた規格直交関係式

\begin{align*}\delta(k’_x-k_x)=\int_{-\infty}^\infty dx\ \psi_{k_x}^*\psi_{k’_x}\tag{30}\end{align*}

デルタ関数による規格化を行なう。

 通常の規格化では「波動関数\(\psi_n\)の絶対値2乗は確率密度」を表すがデルタ関数による規格化では、「波動関数\(\psi_{k_x}\)の絶対値2乗は相対確率密度」を表す。確率密度は空間全ての点で足し合わせたら\(1\)になるが、ここでの相対確率密度は空間全ての点で足し合わせても\(1\)にはならない。

エネルギー固有関数まとめ

 自由粒子においてエネルギー固有関数\(\varPsi_{k_x}\)の形は

\begin{align*}\varPsi_{k_x}=\sqrt{\frac{1}{2\pi}}e^{i\{k_xx-(E/\hbar)\}t}\tag{31}\end{align*}

であり、対応するエネルギー固有値\(E\)は式(11)および式(13)より

\begin{align*}E=\frac{\hbar^2k_x^2}{2m}\tag{32}\end{align*}

である(\(k_x\)は連続変数である)。

 式(31)を見ると、\(e^{-i(E/\hbar)t}\)は複素周期関数であるため、エネルギー固有関数\(\varPsi_{k_x}\)は振幅が\(\sqrt{\frac{1}{2\pi}}\)の平面波であることが分かる。また、式(32)を見るとエネルギー固有値は連続であり、井戸型ポテンシャルのときと異なり最低エネルギー準位はゼロをとることができる。

運動量固有関数

 運動量演算子\(\hat p_x\)

\begin{align*}\hat p_x=-i\hbar\frac{\partial }{\partial x}\tag{33}\end{align*}

に対応する固有関数系は

\begin{align*}\phi_{p_x}&\propto e^{i(p_x/\hbar)x}\\&=e^{ik_xx}\tag{34}\end{align*}

であるため、無限に深い井戸型ポテンシャルのときと異なり、自由粒子ではエネルギー固有状態は運動量固有状態と一致することが分かる。

次ページから⋯

次ページでは、有限の深さの井戸型ポテンシャルにおける時間に依存しないシュレーディンガー方程式を導き、井戸の外で\(E\text{<}V\)となる束縛状態と、\(V\text{<}E\)となる散乱状態の2種類が存在することを確認する。


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