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本ページでは、無限に深い井戸型ポテンシャル(3次元)における時間に依存しないシュレーディンガー方程式
\begin{align*}\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2 }{\partial x^2}+\frac{\partial ^2}{\partial y^2}+\frac{\partial ^2}{\partial z^2}\right)+V\right\}\psi_n=E\psi_n\end{align*}
を解き、波動関数\(\psi_n\)
\begin{align*}\psi_n=\sqrt{\frac{8}{abc}}\sin\frac{n_x\pi}{a}x\sin\frac{n_y\pi}{b}y\sin\frac{n_z\pi}{c}z\end{align*}
とエネルギー準位\(E\)
\begin{align*}E&=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_x{}^2}{a^2}+\frac{n_y{}^2}{b^2}+\frac{n_z^2}{c^2}\right)\end{align*}
を求める(ただし、\(n_x\),\(n_y\),\(n_z\)は\(1,2,3,\cdots\))。
また、井戸の形が立方体のとき、縮重状態が存在することを確認する。
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\begin{align*}\left(-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2}{dx^2}+V\right)\psi_n=E\psi_n\tag{1}\end{align*}
を解き、波動関数\(\psi_n\)
\begin{align*}\psi_n=\sqrt{\frac{a}{2}}\sin\frac{n\pi}{a}x\tag{2}\end{align*}
とエネルギー準位\(E\)
\begin{align*}E=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\frac{n^2}{a^2}\tag{3}\end{align*}
を求めた。
内容
無限に深い井戸型ポテンシャル(3次元)
3次元における無限に深い井戸型ポテンシャルでは、井戸は3次元の直方体となり、井戸の中ではポテンシャルエネルギー\(V\)はゼロ、井戸の外ではポテンシャルエネルギー\(V\)が\(\infty\)となる。今回は、井戸のある頂点を原点\((0,0,0)\)、原点と向かいあっている頂点を点\((a,b,c)\)にとり、井戸の\(x\),\(y\),\(z\)軸それぞれの方向の長さを\(a\),\(b\),\(c\)とする。
\begin{align*}V=0&\ \ \ \ 0\text{<}x\text{<}a,\ 0\text{<}y\text{<}b,\ 0\text{<}z\text{<}c\\V=\infty&\ \ \ \ それ以外の点\end{align*}
無限に深い井戸型ポテンシャルにおいて、自由粒子が存在するときにエネルギー\(E\)の固有関数\(\varPsi_n\)を求めてみる。もし、系の状態\(\varPsi\)を求めたいときは、エネルギー固有関数\(\varPsi_n\)の一次結合で表すことができる。
\begin{align*}\varPsi=\sum_{n}c_n\varPsi_n\tag{4}\end{align*}
今回、ハミルトニアンは
\begin{align*}H=\frac{\boldsymbol p^2}{2m}+V\tag{5}\end{align*}
であり、運動量\(\boldsymbol p\)を運動量演算子\(-i\hbar\boldsymbol\nabla\)に置き換えるとハミルトン演算子\(\hat H\)は
\begin{align*}\hat H&=-\frac{\hbar^2}{2m}\boldsymbol\nabla^2+V\\&=-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2 }{\partial x^2}+\frac{\partial ^2}{\partial y^2}+\frac{\partial ^2}{\partial z^2}\right)+V\tag{6}\end{align*}
となる。今回のハミルトニアンも時間に依存しないため、エネルギー固有関数\(\varPsi_n\)は以前のページより
\begin{align*}\varPsi_n=\psi_ne^{-i(E/\hbar)t}\tag{7}\end{align*}
であり、波動関数\(\psi_n\)の形は時間に依存しないシュレーディンガー
\begin{align*}\hat H\psi_n=E\psi_n\tag{8}\end{align*}
を解けば求めることができる。式(8)の具体的な形は
\begin{align*}\left\{-\frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{\partial^2 }{\partial x^2}+\frac{\partial ^2}{\partial y^2}+\frac{\partial ^2}{\partial z^2}\right)+V\right\}\psi_n=E\psi_n\tag{9}\end{align*}
であり、以後、解きやすいように
\begin{align*}\left(\frac{\partial^2 }{\partial x^2}+\frac{\partial ^2}{\partial y^2}+\frac{\partial ^2}{\partial z^2}\right)\psi_n+\frac{2m}{\hbar^2}(E-V)\psi_n=0\tag{10}\end{align*}
と変形しておく。
変数分離
複数の変数からなる微分方程式の解があるシンプルな形であると仮定して、与えられた微分方程式を、それぞれ1つだけの変数を含む微分方程式に分けて解く方法を変数分離とよぶ。
井戸の外での波動関数\(\psi_n\)
井戸の外ではポテンシャルエネルギー\(V\)は\(\infty\)であり、1次元と同様に井戸の外では波動関数\(\psi_n\)は
\begin{align*}\psi_n=0\tag{11}\end{align*}
となければならない。つまり、3次元においても井戸の外には自由粒子は存在できない。
井戸の中での波動関数\(\psi_n\)
井戸の中ではポテンシャルエネルギー\(V\)はゼロのため、時間に依存しないシュレーディンガー方程式(7)は
\begin{align*}\left(\frac{\partial^2 }{\partial x^2}+\frac{\partial ^2}{\partial y^2}+\frac{\partial ^2}{\partial z^2}\right)\psi_n+\frac{2mE}{\hbar^2}\psi_n=0\tag{12}\end{align*}
と、2階の線形微分方程式になる。
今回、時間に依存しないシュレーディンガー方程式(12)を解くとき、変数分離を用いて解くことにする。解となる関数\(\psi_n\)の形として様々な形が考えられ、例えば、それぞれ一つだけの変数\(x\),\(y\),\(z\)から\(X(x)\),\(Y(y)\),\(Z(z)\)が構成されるとき、それらの和\(X+Y+Z\)であったり、それらの積\(XYZ\)などが考えられる。今回、多くの現象で見られる積\(XYZ\)の形で解となる波動関数\(\psi_n\)が与えられると仮定する。
\begin{align*}\psi_n=X(x)Y(y)Z(z )\tag{13}\end{align*}
この波動関数\(\psi_n\)を、方程式(12)に代入すると
\begin{align*}YZ\frac{\partial^2X}{\partial x^2}+XZ\frac{\partial ^2Y}{\partial y^2}+XY\frac{\partial ^2Z}{\partial z^2}+\frac{2mE}{\hbar^2}XYZ=0\tag{14}\end{align*}
となり、両辺を\(XYZ\)で割ると
\begin{align*}\frac{1}{X}\frac{\partial^2 X}{\partial x^2}+\frac{1}{Y}\frac{\partial ^2Y}{\partial y^2}+\frac{1}{Z}\frac{\partial ^2Z}{\partial z^2}+\frac{2mE}{\hbar^2}=0\tag{15}\end{align*}
となる。式(15)の1項目を右辺に移項すると、
\begin{align*}\frac{1}{Y}\frac{\partial ^2Y}{\partial y^2}+\frac{1}{Z}\frac{\partial ^2Z}{\partial z^2}+\frac{2mE}{\hbar^2}=-\frac{1}{X}\frac{\partial^2 X}{\partial x^2}\tag{16}\end{align*}
となり、任意の\(x\),\(y\),\(z\)で恒等的に式(16)が成り立つためには両辺が定数でなければならないため、その定数を\(\frac{2mE_x}{\hbar^2}\)とおくと、
\begin{align*}-\frac{1}{X}\frac{\partial^2 X}{\partial x^2}-\frac{2mE_x}{\hbar^2}=0\tag{17}\\\frac{1}{Y}\frac{\partial ^2Y}{\partial y^2}+\frac{1}{Z}\frac{\partial ^2Z}{\partial z^2}+\frac{2m(E-E_x)}{\hbar^2}=0\tag{18}\end{align*}
のように、変数\(x\)のみからなる式(17)と変数\(y\),\(z\)からなる式(18)に分けることができる。次に、式(18)の1項目を右辺に移項すると、
\begin{align*}\frac{1}{Z}\frac{\partial ^2Z}{\partial z^2}+\frac{2m(E-E_x)}{\hbar^2}=-\frac{1}{Y}\frac{\partial ^2Y}{\partial y^2}\tag{19}\end{align*}
となり、任意の\(y\),\(z\)で恒等的に式(19)が成り立つためには両辺が定数でなければならないため、その定数を\(\frac{2mE_y}{\hbar^2}\)とおくと、
\begin{align*}-\frac{1}{Y}\frac{\partial^2 Y}{\partial y^2}-\frac{2mE_y}{\hbar^2}=0\tag{20}\\\frac{1}{Z}\frac{\partial ^2Z}{\partial z^2}+\frac{2m(E-E_x-E_y)}{\hbar^2}=0\tag{21}\end{align*}
のように、変数\(y\)のみからなる式(20)と変数\(z\)のみからなる式(21)に分けることができる。最後に、\(E=E_x+E_y+E_z\)とおくと、式(21)は
\begin{align*}-\frac{1}{Z}\frac{\partial^2 Z}{\partial z^2}-\frac{2mE_z}{\hbar^2}=0\tag{22}\end{align*}
となる。式(17),(20),(22)は無限に深い井戸型ポテンシャル(1次元)の時間に依存しないシュレーディンガー方程式と同じ形をしているため、すぐに解くことができ、関数\(X\),\(Y\),\(Z\)は
\begin{align*}X=\sqrt{\frac{2}{a}}\sin\frac{n_x\pi}{a}x\tag{23}\\Y=\sqrt{\frac{2}{b}}\sin\frac{n_y\pi}{b}y\tag{24}\\Z=\sqrt{\frac{2}{c}}\sin\frac{n_z\pi}{c}z\tag{25}\end{align*}
と、エネルギー準位\(E_x\),\(E_y\),\(E_z\)は
\begin{align*}E_x=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\frac{n_x{}^2}{a^2}\tag{26}\\E_y=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\frac{n_y{}^2}{b^2}\tag{27}\\E_z=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\frac{n_z{}^2}{c^2}\tag{28}\end{align*}
と求まる。ただし、\(n_x\),\(n_y\),\(n_z\)は\(1,2,3,\cdots\)である。
最後に、式(13)より波動関数\(\psi_n\)は
\begin{align*}\psi_n=\sqrt{\frac{8}{abc}}\sin\frac{n_x\pi}{a}x\sin\frac{n_y\pi}{b}y\sin\frac{n_z\pi}{c}z\tag{29}\end{align*}
と求まり、式(15)よりエネルギー\(E_n\)
\begin{align*}E&=E_x+E_y+E_z\\&=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_x{}^2}{a^2}+\frac{n_y{}^2}{b^2}+\frac{n_z^2}{c^2}\right)\tag{30}\end{align*}
と求まる。
エネルギー固有関数まとめ
無限に深い井戸型ポテンシャル(3次元)において、エネルギー固有関数\(\varPsi_n\)の形は
\begin{align*}\varPsi_n=\sqrt{\frac{8}{abc}}\left(\sin\frac{n_x\pi}{a}x\sin\frac{n_y\pi}{b}y\sin\frac{n_z\pi}{c}z\right)e^{-i(E_n/\hbar)t}\tag{31}\end{align*}
であり、対応するエネルギー固有値\(E_n\)は
\begin{align*}E&=E_x+E_y+E_z\\&=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m}\left(\frac{n_x{}^2}{a^2}+\frac{n_y{}^2}{b^2}+\frac{n_z^2}{c^2}\right)\tag{30}\end{align*}
である(ただし、\(n_x\),\(n_y\),\(n_z\)は\(1,2,3,\cdots\))。
式(31)を見ると、\(e^{-i(E/\hbar)t}\)は複素周期関数であるため、エネルギー固有関数\(\varPsi_n\)は振幅が\(\psi_n\)の定常波であることが分かる。
縮重状態
無限に深い井戸の形が長さ\(a\)の立方体のとき、波動関数\(\psi_n\)とエネルギー\(E\)は
\begin{align*}\psi_n&=\sqrt{\frac{8}{a^3}}\sin\frac{n_x\pi}{a}x\sin\frac{n_y\pi}{a}y\sin\frac{n_z\pi}{a}z\tag{32}\\E&=\frac{\pi^2\hbar^2}{2ma^2}\left(n_x{}^2+n_y{}^2+n_z^2\right)\tag{33}\end{align*}
となる。
ここで、整数\(n\)の組み合わせ\(n=(n_x,n_y,n_z)\)が\((1,1,2)\)や\((1,2,1)\)のように異なってもエネルギーの値は変わらないが、波動関数の形が異なる場合がある。このとき、エネルギー固有値は縮重状態であり、対応した幾つかの波動関数が存在する。
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次ページでは、自由粒子における時間に依存しないシュレーディンガー方程式を周期的境界条件の下で解き、波動関数とエネルギー準位を求める。
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