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本ページでは…
本ページでは、局所時間を考慮してもマイケルソン-モーリーの実験結果を説明できないことを確認し、エーテル中を運動する物体が運動方向に縮むローレンツ収縮を導入する必要があることをみる。
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前ページでは、空間座標におけるガリレイ変換
に加えて局所時間
を導入すると、\(\frac{v^2}{c^2}\)が十分小さいときに近似的にマクスウェル方程式の形が保たれることをみた。これは、慣性系同士の相対速度\(v\)が光速度\(c\)と比べて十分小さい低速極限よりもさらに精度の高い変換であった。
内容
局所時間の適用
以前のページで見たように、マイケルソン-モーリーの実験では、2つの光路で光が往復する時間に差が現れなかった。しかし、この結果は局所時間を導入するだけでは説明できず、さらにローレンツ収縮を導入する必要が生じる。本ページではそのことを確かめてみる。
ここで、干渉計の2つの腕の長さをそれぞれ\(L\)とし、地球がエーテルに対して\(x\)軸方向に速度\(v\)で運動していると仮定する。そして、一方の光路をエーテル風の方向と平行にする。
エーテル風の方向に平行な光路
はじめに、エーテル風の方向に平行な光路について、往復にかかる時間を考える。
ここで、エーテル静止系\(S\)において、往路スタート地点(ビームスリッター)の座標を\((0,0,0,0)\)、往路エンド地点および復路スタート地点(鏡)の座標を\((t_1,x_1,0,0)\)、復路エンド地点(ビームスリッター)の座標を\((t_2,x_2,0,0)\)とする。
また、装置静止系\(S’\)において
とする。
エーテル静止系
まず、エーテル静止系\(S\)において往路にかかる時間\(t_1\)を考える。ここで、エーテル静止系\(S\)では光の速度は\(c\)で一定のため、往路における光の移動距離\(ct_1\)は腕の長さ\(L\)に鏡の移動距離\(vt_1\)を足したものに等しく、次の関係
が成り立つ。これを解くと往路にかかる時間\(t_1\)
が求まる。
次に、エーテル静止系\(S\)において復路にかかる時間\((t_2-t_1)\)を考える。ここで、復路における光の移動距離\(c(t_2-t_1)\)は腕の長さ\(L\)から鏡の移動距離\(v(t_2-t_1)\)を引いたものに等しく、次の関係
が成り立つ。これを解くと復路時間
が求まる。
以上より、エーテル静止系\(S\)において、往復にかかる時間\(t_2\)は
となり、復路エンド地点(ビームスリッター)の座標はビームスリッターの移動距離に等しく
となる。
装置静止系
装置静止系\(S’\)において、往復にかかる時間\(t_2\)は局所時間における変換を行なって
と求めることができる。
エーテル風の方向に垂直な光路
次に、エーテル風の方向に垂直な光路について、往復にかかる時間を考える。
ここで、エーテル静止系\(S\)において、往路スタート地点(ビームスリッター)の座標を\((0,0,0,0)\)、往路エンド地点および復路スタート地点(鏡)の座標を\((t_3,x_3,L,0)\)、復路エンド地点(ビームスリッター)の座標を\((t_4,x_4,0,0)\)とする。
また、装置静止系\(S’\)において
とする。
エーテル静止系
まず、エーテル静止系\(S\)において往路にかかる時間\(t_3\)を考える。ここで、エーテル静止系\(S\)では光の速度は\(c\)で一定のため、往路における光の移動距離は\(ct_3\)であり、腕の長さ\(L\)と鏡の移動距離\(vt_3\)から直角三角形を作ることができる。つまり、次の三平方の定理
が成り立ち、これを解くと往路時間
が求まる。
次に、エーテル静止系\(S\)において復路にかかる時間\((t_4-t_3)\)を考える。ここで、往路における光の移動距離は\(c(t_4-t_3)\)であり、腕の長さ\(L\)と鏡の移動距離\(v(t_4-t_3)\)から直角三角形を作ることができる。つまり、次の三平方の定理
が成り立ち、これを解くと復路時間
が求まる。
以上より、エーテル静止系\(S\)において、往復にかかる時間\(t_4\)は
となり、復路エンド地点(ビームスリッター)の座標はビームスリッターの移動距離に等しく
となる。
装置静止系
装置静止系\(S’\)において、往復にかかる時間\(t_4\)は局所時間における変換を行なって
と求めることができる。
ローレンツ収縮
局所時間を考慮した以上の結果をまとめると、エーテル風の方向に平行な光路を移動するのにかかる時間は
であり、エーテル風の方向に垂直な光路を移動するのにかかる時間は
であった。しかし、マイケルソン-モーリーの実験では干渉縞のずれは観測されなかったため、局所時間を考慮しても、時間差は消すことができないことがわかる。
ここで、ローレンツは「エーテルの中を進むと物体が縮む」と考えることで、エーテルの存在を仮定しつつ、マイケルソン-モーリーの実験で干渉縞のずれが観測されなかった結果を説明できると考えた。つまり具体的にはエーテル風の方向に平行な光路\(L’\)が垂直な光路\(L\)に対して
に縮めば、2つの光路を進む時間の差はゼロとなり、干渉縞のズレは見られなくなる。このように、エーテルの中を物体が運動するとき運動方向に縮む現象をローレンツ収縮という。
本当に収縮するかという疑問
ここで、本当に収縮が起こるのだろうかという疑問が生じる。
しかし、ここで局所時間の考えでは、絶対時間ではなく、同時性は相対的であることを思い出そう(前ページを参照)。ローレンツの主張では、収縮は局所時間によって各慣性系での同時刻の定義が異なるために生じる見かけ上の効果であり、同時性の相対性に起因すると考える。つまり、ローレンツ収縮を物体の実在的な変形とみなすと、なぜそのような収縮が起こるのかという力学的説明が必要となる。しかし、ローレンツの考えでは、長さは観測者の慣性系ごとに定義される量であり、収縮は同時性の相対性に起因する測定結果として理解される。そのため、物体を縮める原因を別途仮定する必要はない。すなわち、ローレンツ収縮は局所時間の導入によって自然に説明されるのである。
このことを具体的な例で考えてみる。いま、ある棒が慣性系\(S\)に対して静止しているとする。慣性系\(S\)では、ある時刻\(t\)に棒の前端と後端の位置を同時に測定することで、その長さ(固有長)を求めることができる。一方、慣性系\(S’\)から見ると、この棒は運動している。そのため、慣性系\(S’\)では、ある時刻\(t’\)において前端と後端の位置を同時に測定することによって棒の長さを定める。
ここで重要なのは、慣性系\(S\)における「同時刻\(t\)」と、慣性系\(S’\)における「同時刻\(t’\)」とは、一般には一致しないという点である。したがって、慣性系\(S\)で棒の前端と後端を同時に測定した2つの出来事は、慣性系\(S’\)から見ると同時には起こっていない。すなわち、慣性系\(S’\)では、前端を測定した出来事と後端を測定した出来事には異なる時刻が割り当てられる。これは、単に時刻表示が一様に過去や未来へずれるという意味ではなく、前端と後端それぞれに対応する時刻そのものが慣性系によって異なることを意味している。
このように、慣性系\(S\) と慣性系\(S’\)では、棒の長さを定めるために「2つの慣性系で同時に選べる2点」が一致しない。そのため、両者で測定される長さは一致せず、運動している棒の長さは進行方向に縮んで観測される。これがローレンツ収縮である。
したがって、長さが慣性系によって異なるということは、距離の定義に用いられる同時性が観測者ごとに異なること、すなわち同時性の相対性を要請しているのである。
運動方向にのみ収縮するという疑問
関連する疑問として、ローレンツ収縮は運動方向にのみ現れ、運動に垂直な方向には現れない。この方向依存性は一見すると不自然であり、「なぜ特定の方向だけが特別扱いされるのか」という疑問を生む。
もし収縮が物体そのものの物理的変形であるならば、空間は等方的(どの方向も同等)であるため、特定の方向だけが選ばれる理由は存在しないはずである。しかし実際には、収縮は運動方向に沿った成分にのみ現れる。このことは、収縮が物体そのものの性質ではなく、測定の仕方に由来する効果であることを示唆している。
この疑問も、長さの定義に立ち返ると理解できる。運動方向の長さを測るためには、その方向に離れた2点の位置を同時に測定する必要がある。しかし、この「同時」の定義は慣性系によって異なるため、運動方向の長さにのみ差が現れる。一方で、運動に垂直な方向の長さは、同時性のずれの影響を受けないため、変化しない。
したがって、方向依存の不自然さは、収縮を「空間そのものの変形」と捉えることによって生じる見かけ上の問題であり、実際には同時性の相対性に起因する観測効果として理解されるべきである。
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