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本ページでは、マイケルソン-モーリーの実験原理、理論的予想、そして物理学の歴史を変えた実験結果について解説する。19世紀末、多くの物理学者は、光が伝わるためには媒質「エーテル」が必要であると考えており、もし地球がそのエーテル中を運動しているなら、地球上ではエーテル風が観測されるはずである。マイケルソン-モーリーは、この効果を干渉計によって直接検出しようとした。
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前ページでは、仮想的な電磁波の媒質であるエーテルについて述べた。ガリレイ変換の下で不変なヘルツ方程式には媒質の速度が含まれており、ヘルツ方程式が提唱された当初はガリレイ変換は正しいものと考えられていたため、ヘルツ方程式に従う電磁波にも媒質が存在すると考えられていた。
内容
マイケルソン-モーリーの実験
もし、電磁波の媒質であるエーテルが空間に静止して存在し、その中を地球が運動しているとすれば、地球上の観測者からはエーテルが流れているかのように見える。この見かけの流れはエーテル風と呼ばれていた(前ページを参照)。
エーテル風が存在する場合、光はエーテルに対して一定の速度で伝播するため、地球上で測定される光の速度は、進行方向とエーテル風の向きとの関係によって変化する。例えば、エーテル風に向かって進む光は相対的に遅く観測され、逆にエーテル風に沿って進む光は速く観測されるはずである。したがって、異なる方向における光の速度や伝播時間を精密に比較測定することで、エーテル風の存在、ひいてはエーテルの存在そのものを実験的に検証できると考えられた。この目的のもとに行なわれた実験がマイケルソン-モーリーの実験である。
マイケルソン干渉計
マイケルソン–モーリー実験では、マイケルソン干渉計と呼ばれる装置が用いられた。この装置は、互いに直交する2本の光路を持つことが特徴であり、ビームスプリッター(半透鏡)と2枚の鏡から構成される。光源から発せられた単色光は、光路に対して45度に配置されたビームスプリッターに入射する。ビームスプリッターは入射光を2つに分け、一方を透過させて一方の鏡へ導き、もう一方を反射させて光源と直角方向に配置されたもう一方の鏡へ導く。すなわち、2つの光は互いに直交する経路を進む。それぞれの鏡で反射された光は再びビームスプリッターに戻り、合流した後、その一部が光源とは異なる方向へ進む。この方向に検出器を設置すると、2つの光路を通る光の伝播時間の差が干渉縞のズレとして観測される。
マイケルソン-モーリーの実験の詳細
マイケルソン–モーリー実験では、この装置全体を回転させることで、光の進行方向と地球の運動方向との関係を変化させ、光の伝播速度が方向によって異なるかどうかを検証する。どのように検証するかを数式で追っていく。
ここで、干渉計の2つの腕の長さをそれぞれ\(L\)とし、地球がエーテルに対して\(x\)軸方向に速度\(v\)で運動していると仮定する。そして、一方の光路をエーテル風の方向と平行にする。
エーテル風の方向に平行な光路
はじめに、エーテル風の方向に平行な光路について、往復にかかる時間を求める。
ここで、エーテル静止系\(S\)において、往路スタート地点(ビームスプリッター)の座標を\((0,0,0,0)\)、往路エンド地点および復路スタート地点(鏡)の座標を\((t_1,x_1,0,0)\)、復路エンド地点(ビームスプリッター)の座標を\((t_2,x_2,0,0)\)とする。
まず、エーテル静止系\(S\)において往路にかかる時間\(t_1\)を考える。ここで、エーテル静止系\(S\)では光の速度は\(c\)で一定のため、往路における光の移動距離\(ct_1\)は腕の長さ\(L\)に鏡の移動距離\(vt_1\)を足したものに等しく、次の関係
が成り立つ。これを解くと往路にかかる時間\(t_1\)
が求まる。
次に、エーテル静止系\(S\)において復路にかかる時間\((t_2-t_1)\)を考える。ここで、復路における光の移動距離\(c(t_2-t_1)\)は腕の長さ\(L\)から鏡の移動距離\(v(t_2-t_1)\)を引いたものに等しく、次の関係
が成り立つ。これを解くと復路時間
が求まる。
以上より、エーテル静止系\(S\)において、往復にかかる時間\(t_2\)は
となり、十分にエーテル風の速度\(v\)が光速度と比べて小さければ
\(a\)が十分小さい時、下記が成り立つことを用いた。
となる。そして、ガリレイ変換では絶対時間であり、全ての慣性系で時間は共通のため、装置静止系\(S’\)においても往復にかかる時間は同じである。
エーテル風の方向に垂直な光路
次に、エーテル風の方向に垂直な光路について、往復にかかる時間を求める。
ここで、エーテル静止系\(S\)において、往路スタート地点(ビームスプリッター)の座標を\((0,0,0,0)\)、往路エンド地点および復路スタート地点(鏡)の座標を\((t_3,x_3,L,0)\)、復路エンド地点(ビームスプリッター)の座標を\((t_4,x_4,0,0)\)とする。
まず、エーテル静止系\(S\)において往路にかかる時間\(t_3\)を考える。ここで、エーテル静止系\(S\)では光の速度は\(c\)で一定のため、往路における光の移動距離は\(ct_3\)であり、腕の長さ\(L\)と鏡の移動距離\(vt_3\)から直角三角形を作ることができる。つまり、次の三平方の定理
が成り立ち、これを解くと往路時間
が求まる。
次に、エーテル静止系\(S\)において復路にかかる時間\((t_4-t_3)\)を考える。ここで、往路における光の移動距離は\(c(t_4-t_3)\)であり、腕の長さ\(L\)と鏡の移動距離\(v(t_4-t_3)\)から直角三角形を作ることができる。つまり、次の三平方の定理
が成り立ち、これを解くと復路時間
が求まる。
以上より、エーテル静止系\(S\)において、往復にかかる時間\(t_4\)は
となり、十分にエーテル風の速度\(v\)が光速度と比べて小さければ
\(a\)が十分小さい時、下記が成り立つことを用いた。
となる。そして、ガリレイ変換では絶対時間で全ての慣性系で時間は共通のため、装置静止系\(S’\)においても往復にかかる時間は同じである。
まとめ
したがって、2つの光路の伝播時間差は
となり、この時間差\(\Delta t\)は距離の差\(\Delta l\)
に相当し、波長を\(\lambda\)とすると干渉縞のずれの本数は
となる。そして、装置の角度を90°回転させると\(\Delta N\)の符号は逆になるため、干渉縞のずれの本数の変化量は2倍の
となる。
実験予想
当時の実験では、光路長\(L\)は
であり、波長\(\lambda\)と光速度\(c\)、地球の公転速度\(v\)は
であるから、干渉縞のずれの本数の最大は
と予想されていた。当時の装置の精度では、干渉縞のずれの本数は0.01まで測定できたため、この干渉縞のずれは十分観測できると思われていた。
実験結果
実際にこの実験を行なった結果、干渉縞のずれは全く観測されなかった。この結果は、光の速度が方向によらず一定であることを示唆し、電磁波の媒質であるエーテルの存在に強い疑問を投げかけるものであった。
電磁波が媒質に対して伝播すると考えるヘルツ方程式では、観測者の運動状態によって光の速度が変化することが予測される。そのため、このマイケルソン–モーリーの実験結果から、ヘルツ方程式の妥当性には疑問が生じた。
一方で、電磁波の媒質を考えないマクスウェル方程式の方が正しそうにも思えるが、ガリレイ変換の下ではその形が保たれないという問題がマクスウェル方程式にもあった(以前のページを参照)。このため、マクスウェル方程式を保ちつつ実験結果を説明するためには、従来のガリレイ変換則そのものを見直す必要があると考えられるようになった。
次ページから…
次ページでは、ガリレイ変換に加えて次のような電場·磁場の変換
を行うことで、慣性系同士の相対速度\(v\)が光速度\(c\)と比べて十分小さい低速極限
で、マクスウェル方程式の形が不変となることを見る。
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